ライトニング

ウィンディの発言を聞いたワナビーは戦慄した。

いらない。たったそれだけのために交通事故を起こしてパートナーを殺害未遂したというのだ、 今パートナーは生死不明なのだという。ロスト事件の半年の地獄から生きながらえた同じ歳に交通事故なんて、なんて酷いことを。名前も顔も知らないウィンディのパートナーにワナビーは悲しくなってしまう。身の毛のよだつ話である。なにもしなければロスト事件の被害者達がイグニスと出会うことすらまずありえないというのに、なんという過剰反応だ。

まるで子供だ。自分の思い通りにならないことを嫌がる、初めから自分の思うがままに振る舞いたい子供そのものだ。10年前自ら人間にかかわる道を絶ってしまったウィンディは、人間について学ぶ機会を自ら失ってしまったのだ。それゆえの恐れ、過度な排除思考、いわばビビっていたのだ。

それはパートナーがそばにいては情がわいてやりたいことができなくなることを忌避するあまりの反応だった。だがそれがリボルバーとのデュエルの勝敗を決定づけた。デュエルはライフポイントがつきるその瞬間までわからない。アインスとリボルバーのデュエルをまじかで目撃しながら、ウィンディはそこまで思考が至らなかったようだ。場外乱闘だとでも思っていたのかもしれない。

勝利を確信するならばフィールド魔法を真っ先に破壊すべきだったのである。手札消費が激しいリボルバーのデッキは、いかに墓地活用をするかにかかっている。まして、1度先にリボルバーがシンクロ召喚という逆転の一手を明かしてしまったのに、それを警戒できなかったウィンディの詰めの甘さが全てだった。ストームアクセスというスキルをマスタールールで行う暴挙にでたことで勝ちを確信したのかもしれないが、ボーマンたちと繋がっていたことが発覚した時点で焚き付けるものがあったのだろう。小賢しい真似をするイグニス、抹殺すべき人工知能、愛する父から引き継いだ使命を再確認したリボルバーの闘志にさらに火をつけてしまう形となった。リボルバーとウィンディのデュエルは、リボルバーの勝利となった。

そしてなんの躊躇もなくウィンディを抹殺しようとしたハノイの騎士にワナビーは息を呑む。やはり彼らは敵だ。HALも抹殺対象だというのだから紛れもなく敵だ。そして人間を抹殺するというウィンディ、そしてライトニングも。

するとライトニングがワナビーをみた。

「いや」

「?」

「そこの人間は人間としての姿を捨てれば考えてやらないことはない」

「え」

「サイバース族として生きるっていうなら見逃してやらないこともない」

「HALの懸念は君だけのようだからな、和波誠也」

「......そんなことできるわけないじゃないですか」

「まあ、すぐに結論を出せというわけじゃない。時間はたくさんある。HALと考えるんだな、君は不霊夢とsourburnerと違って、我々と同じところにこれる素質があるのだから」

「素質って」

ライトニングの言葉にワナビーは震えが止まらない。高速で動けるならウィンディが串刺しになる前にライトニングが助けることも出来たはずなのに、アイが声を上げるまでなにもしなかったのだ光のイグニスは。仲間意識はなさげなのか、あるいはライトニング自身がウィンディを下に見ていたか、リボルバーたちにplaymaker陣営も一枚岩ではないと見せつけるためか、アイ自身に揺さぶりをかけるためか。あらゆる可能性が考えられるがワナビーはついていけない。人工知能たちの高尚な思想もハノイの騎士と人工知能の極端な排除思考もどちらも受けつけられなかった。それゆえの拒絶だ。

「おいおい俺様のパートナー勝手に口説くの辞めてくれませんかねえ。グレイ・コードと手を組んでる時点でてめーらと手を組む選択なんざはなからねえんだよ!」

HALの言葉にワナビーはほっとしたような顔をする。

「おいおいどういうつもりだ、俺様がてめーをおいてライトニングたちにつくとでも?どんだけ馬鹿にしてんだ、クソガキが」

「えっ、いや、そうじゃないよ!勝手にいなくなるHALが悪いんじゃないか!」

「へーへー悪うございました」

「棒読みじゃないかあ!反省してよ!!」

いつもの調子を取り戻したワナビーはほっとした。ずっと一緒、いつかは一緒にと言われていたがこんな状況になり、HALがそういってくれたなら安心してplaymakerやsourburnerたちと手を組むことができる。まだ結論を出すのは先でいいと言ってくれたなら、ワナビーはそこで思考が止まってしまうのだ。5年前からずっと。
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