それは目の前の青年がマスタード抜きホットドックが好きな年頃だとようやく把握したある日のことだった。カフェナギは今日も客足が伸びないでいる。ため息をついていた草薙に、唯一の常連が顔を上げた。
「アンタに頼みがある」
今より幾分幼さの残る、あまり人と喋っていない子供特有の調子で青年は話しかけてきた。ぼそぼそ早口で喋りかけてくるのはいつものくせだ。草薙は軽く笑ってなんだと返した。
「俺の活動を邪魔してくる奴がいるんだ」
眉を寄せた草薙は、詳細を促した。ほっとした様子で遊作は語りはじめる。どうやらずっと困っていたようで語り口はきわめて切実だった。
話を聞いた草薙は悪寒が走る。顔がこわばるのがわかる。遊作もまた草薙の顔を見て相談に値する事態だったのだと安心したようだ。まだまだ互いに手探りな状態である。
遊作がいうに事態はなかなか切迫しているように見えた。遊作がログインしてから数日後にたまたまデュエルした初期アバターのユーザーに勝利した。その翌日、探していたんだ、といわれながら再戦を申し込まれて敗北したらしい。しかもそのときユーザー情報にハッキングをしかけられ、生体情報を抜かれたらしいのだ。そのせいで遊作が今のアバターを作り直したのに特定して突撃してきて以来、毎回のようにデュエルを挑んでくるデュエルジャンキーがいるというのだ。
「まさか、ロスト事件関係者が?」
「わからない。毎回初期アバターで突撃してくるから、ブロック機能が仕事をしないんだ。このデッキを使うアバターを特定する機能を作ってくれ」
「《ライトロード 》?わかった」
「できたら、このデュエルログに残ってるカードひとつひとつに反応できるプログラムが欲しいんだ。アイツは俺がデュエルしないとどこまでも追いかけてくる。活動の邪魔をされたのも一度や二度じゃない。これからのことを考えたら、邪魔は排除した方がいい。できるか?」
草薙はにやりと笑った。
「俺を誰だと思ってるんだ、安心しろ」
「そうか、よかった。ありがとう」
よこせと催促して渡されたログの山に閉口したのも懐かしいものだと草薙は笑う。
初めて遊作が頼ってくれたんだ、と嬉しそうな草薙の回顧録に和波は笑うしかなかった。
「ゴーストのやつ、最近は和波君のデッキデータに新規カードを打ち込むから登録が大変なんだ。悪いな、大事なデッキ借りちゃって」
「仕方ないですよ、《星杯》は僕しか持ってないですし」
「へー、それじゃあ今は遊作と和波のストーカーなのか、ゴーストって」
「やめてください………」
ぐったり気味の和波を見て、穂村は肩を叩いた。HALに振り回されている自作自演だと言えない和波はそのまま机にへばりつくしかないのである。