vsライトニング

「だから言ったんだ、ワナビー。君は私に勝てるわけがないのだよ。身の程を弁えるべきだったな」

ワナビーはライトニングにとって襟首えりくびをつかまれた子供より他愛なかった。一枚の新聞紙が燃えてしまうのを見ているより、他愛なかった。怒った自然の前には、人間は塵ちりひとひらにも及ばない。人間などという存在は全く無視される。それと同じだったのだ。

ライフポイントがゼロになった瞬間、ワナビーは膝をおった。

手のつけようのない数学の問題を目の前にして、時計の針を動くのを眺めているような時間だった。天に祈るほか何の術もない。刀も折れ矢も尽きた。海を前にした川の流れのように無力で、潮の寄せるがごとく、逆らうすべもない進撃に屈するしかない。みじめな飼犬のように無力に成り下がってしまった。

つまるところ、それがワナビーとライトニングの差だった。危害に遇うところりと死んだふりをする虫けらのように無力。手の打ちようがなかった。ワナビーの今の心の内は、からからに干からびた砂漠そのものだ、と思った。果てがなく、精神が乾燥し、方向感覚を失っている。これからどう歩き出せばいいのか、途方に暮れている。

デュエルは終始ライトニングのペースだった。1度もワナビーは主導権を握れなかった。あまりに急激に廻転している歯車の前に立ったときのように、手の出しようがなかったのだ。

日ざしを失った日時計のように、たちまち途方に暮れるしかない。立ち向かうことができず、かと言って逃げ出すこともできずに途方に暮れていた。

何を思いどれだけ手をつくしたところで、それをもとの状態に復することはできないのだ。

ライトニングは笑う。

「せっかくだから君のデータももらうことにしようか、ワナビー。君もサイバースのデータで出来ているからね。人間の精神をまるごとサイバースのデータに変換するなんてことを成し遂げたのは賞賛に値するよ、HAL。だからこそ、ワナビーとともにこちらのデータとなるがいい」

嬉しそうに笑うライトニングの声が最後だった。ワナビーが最後に見たのは、ログインするplaymakerとアイである。

他のデュエリストと違い、イグニス同様ライトニングに吸収されてしまったワナビーにplaymakerは真っ青になる。ワナビーとHALを返せと叫ぶplaymakerの怒りが最後の光景だった。なにかひとこといえたらよかったのに、という未練だけがワナビーの心に楔を打ち込んだのだった。
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