夏風邪、夏祭り(1/2)




「げほっ…ごほっ……っあ〜…あだまいだい…」


今日はホスト部のみんなと、マネージャーの私でハルヒの近所の夏祭り行く予定だ。


…ったのに…


私は自室のベッドの上で寝ていた。みごとに夏風邪をひいてしまったのだ。
朝は咳が出て、頭がぼーっとするだけだったのに、昼過ぎから熱が出てきた。
本当はだるい身体引きずってでも駆けつけたいけど、みんなに風邪を移すと悪いので家でおとなしく寝ている。

ちっくしょう…
今頃は浴衣ハルヒの写真をバンバン撮っているはずだったのに!
ハルヒの浴衣姿絶対可愛いのに!!

寝返りをうって壁の時計を確認すると午後7時。
みんな今頃は夏祭りを楽しんでいる真っ最中だろう。


「環先輩は庶民のお祭りは初めてだろうから、きっとすごくはしゃぐんだろうな…」


そんな環先輩を想像して苦笑する。絶対うるさいぞ、環先輩。
光と馨も環先輩をからかいつつ、『ハルヒにどんなお面が似合うかゲーム!』みたいな訳のわからないゲームしてて…
ハニー先輩はお祭りの食べ物全部食べる勢いでモリ先輩と屋台をまわって…
ハルヒはそんなみんなに奔走して…
それで鏡夜先輩は他人のふり。

私は…

遠い自分の家から、みんなの楽しむ姿を想像する。


「…あ、どうしよう…想像したら涙出てきた」


私は布団を引っ張って頭までかぶった。
みんなと一緒に行けなかった悔しさと、悲しさと、一人の寂しさと、風邪をひいてしまった自己嫌悪。いろんな思いが混じって枕を濡らす。
みんなと一緒に行けたら、どんなに楽しいんだろ。


「一緒に、行きたかったな…」


それからしばらくたっただろうか。
泣いていた私はそのまま寝てしまったらしい。乱れた髪の毛を整えながら身体を起こして窓の外を見る。

外は暗いと言うには少し明るく、薄暗いと言うには暗いという微妙な色だ。
この時間ならまだお祭りはやっているはず。
額に手をやると、私の熱によって冷たさを失った熱冷まシートが生ぬるくなっていた。


「うわ、あっつ…」


それを剥がして手を直接額に当てると熱が伝わってくる。頭もさっきより痛くなった。
ヤバい。風邪どんどん酷くなってきてる…

両親は海外出張ですぐに帰ってこれないし、私の家は桜蘭のD組にギリギリ入れる程度の低い家柄だから使用人なんて雇えない。
つまり今私は一人。

熱に火照る身体を動かすことですら面倒に感じたが、頭を冷やさないとすぐには治らないような気がして仕方なく下に代えを取りに行く。



***



「わ、私の家の階段ってこんなにあったっけ?」


身体を這いずって階段まで来たはいいが、あまりの前の段差の多さに軽く目眩を感じた。
手すりに捕まってそろそろと階段を踏み外さないように注意深く降りる。
頭痛はピークに達し、どうも頭が働かなくてふわふわしている。
頭のどこかではちゃんと注意しようとしているのに、時々思考がぷつっと切れてしまう。

階段を半分くらい降りた時だった。
急に階段が歪んだ。身体が浮遊感に襲われる。

あ…まずい…

階段から落ちてるんだ、コレ。
頭が現状理解した瞬間、私の身体が途中で止まった。
否、ここには誰もいない筈なのに誰かに支えてもらっている。


「まったくお前は…」




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