君が好き(1/1)



私には好きな人がいる。片想い、だけど。


授業中、ちらっと後ろを向く
先生に質問している子の方を見ている振りをして

あなたは真面目にノートをとっている訳でもなく、
先生の回答に耳を傾けている訳でもない

双子の兄と、隣の席の藤岡くんにちょっかいをかけている


いつから好きだとか、何で好きなのかは自分でもよくわからない


中等部の頃はどこか刺々しくて、あまり好きな方ではなかったはずなのに

気がついたら目で追っていて、

あなたが笑っていると私も嬉しくて

気がついたら好きだった



私は自他共に認める引っ込み思案で、話しかけたことはおろか名前すら覚えてもらっていない(悲しいけど私は影が薄い)
そんな私がホスト部なんて行けるはずもなく、まして告白なんてもっての他

でも

それでもいい、と思う

遠くから眺めるだけで私はいっぱいいっぱいで、それ以上のことなんて───…


「…………」
「………!」


不意に目が合った気がして、あわてて目を逸らした
危ない…見てたの気づいたかなぁ……?

もう一度そっと後ろを見ると、何事もなかったように藤岡くんと話していた
バレてない…良かった…とほっと胸を撫で下ろした
やっぱり目が合ったなんて、只の私の思い過ごしだったんだ
自惚れるにも程があるなかな、なんて苦笑する。



***



「紀元前6世紀キュロス2世はアケメネス朝ペルシャ帝国を建国し、新バビロニアを破りオリエントを統一…」


来週は期末テスト
藤岡くん程ではないが、それなりに努力はする方だ

世界史の教科書を読みながら角を曲がった時、人影が視界の隅に見えた


「…わ!!」
「え!?」


ぶつかりはしなかったものの、避けたせいで腰が抜けた
廊下にしりもちをつく


「ごめん、大丈夫?」


そこには、私に手をのばす


「…か、おる君…?」


私の好きな人の姿があった

一気に自分の体温が上がる


「ああああのっ!!馨くんごめ…えっと…その!!」


落ち着け、落ち着け私!!
自分が何を言っているのかわからなくなって、それでまたパニック状態になる

自分の鼓動が早鐘のように鳴っている
この分だと、顔も赤いかもしれない

そんな私の手を握って、馨くんは私を立たせてくれた

握った手に熱が籠る
馨くんの手、おっきくて温かい…


「君よく分かったね」
「え?」
「僕が馨だってサ」


今までハルヒしかわかんなかったのに、と馨くんは嬉しそうに笑う

今度は顔が赤くなるのが自分でもはっきりと分かった

わかるよ


だって

だって私が好きなのは…


「馨〜?何してんの〜?」


少し離れたところから馨くんを呼ぶ声
この声は…光くんだ


「あぁー…ごめん光!今行く!!」
「あ…」


すっ、と離れた手が名残惜しくて

でも、それ以上にあなたと話せたことが嬉しくて


「気をつけてね」


不意に走りかけた馨くんが立ち止まって、振り返らずに口を開いた


「ナマエさん」

「……!!」


馨くんはそのまま光くんの元に走って行った

名前…覚えててくれたんだ

たったそれだけ
それだけのことなのに

すごくすごく嬉しくて

また腰が抜けそうになって

心臓がうるさいくらい鳴って

さっきより真っ赤になった顔を押さえて



「…です」



小さく溢れたそれが

君の耳には届かなくて

小さくなっていく背中に

少し安心した



です
(私、頑張ってみようかな)



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