Clap
「あ、雪……」
君の小さな呟きに譜面から顔を上げ、窓の外を見る。ちらちらと舞う粉雪が、夜の暗闇できらきら光っていた。
「本当ですね……結構暗くなってきましたから、今日はこの辺りで止めにしましょうか」
「はいっ……あ、じゃあ一ノ瀬さんは先に帰ってください。私が片付けを…」
「暗い中、私が一人で女性を帰すと?……送ります」
溜息をつきながら返すと、きょとんとしてから「すみません」と謝り、慌てて片付けを始める君。その姿に肩を竦め小さく笑うと、私も片付けを始めた。
レコーディングルームの鍵を返してから外に出ると、相変わらず雪はちらちらと降っていた。周りの植木や学園長の像にはうっすら雪が積もっている。私達は、寮の方に足を向け、歩きだした。
「うわぁ、もう積もってますね!」
「空に見とれるのはいいですが、足元が疎かになっていますよ……転んでも…」
「きゃっ………」
ぐらりと傾いだ身体を抱き留めた。途端に君の匂いや柔らかさに満たされ、無意識の内に抱きしめ直してしまう。
「っと……全く、君という人は……」
「す、すみません……」
恥ずかしさから俯く君のつむじに軽く口づけ、さらに抱きしめる力を強めた。もう少し、この温もりを感じたい。
愛らしい、愛くるしい、愛しいという想いが私を支配する。戸惑ったように、赤い顔のままこちらを見上げる君は、本当に可愛らしくて。
「あ、あのっ、一ノ瀬さ…」
「私の忠告を聞かなかったお仕置きです。………もう少し、このまま……」
「………」
「………」
「一ノ瀬さん………」
「……何ですか?」
「………静か、ですね……まるで、世界に私と一ノ瀬さんしかいないみたいです」
君の言葉に耳を澄ますと、周りにはしんしんと雪が降る音しか聞こえない。静かで、このまま静寂に溶けてしまいそうだ。
「……本当ですね」
「ふふっ、でもおかしいんです。先程から私の頭の中にはメロディーがどんどん浮かんできて……全然静かじゃなくて……」
はにかむように告げた君の表情は、雪と同じようにきらきらと輝いている。やはり君は音楽の神に愛されているのだろう。私は名残惜しく感じながら、身体を離してふ、と笑みを浮かべた。
「そうですか……では、早くそれを五線譜に書かなくては。………身体も冷えてきますし、行きましょうか、お姫様」
そっと手を差し出すと、赤くなりながらもおずおずと手を取る君。
君の温もりが愛しくて、愛しくて。
私は引き寄せられるかのように、その手の甲に口づけた。
君がお姫様ならば、私は王子様になりましょう。
君を守り、永遠を誓い、愛するような、王子様に。
だから君は、いつも傍にいてください
そして、笑っていてくださいね
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雪がテーマですが、トキ春です^^^^
甘々なトキ春が書きたかっただけですはいww
何はともあれ、拍手ありがとうございました!
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