If Story

▽ side彰吾


葵とただ健全に過ごした昨日の昼休み。悪くない時間ではあったが、やはり物足りなさは否めない。そのせいで今日は四限の授業が終わるのが正直待ち遠しかった。チャイムが鳴るなり席を立つくらいには。

だから今足止めを食らっている事実は彰吾にとっては何よりも腹立たしい。

「あの一年、そろそろこっちにも回してくれません?」

彰吾の目の前にいるのは、一学年下の戌井という男。

それほど派手な顔立ちをしているわけではない。だが、長めの髪をハーフアップにするせいで、剥き出しになった耳にある無数のピアス痕がいやでも目に付く。

いつだったか、自分に穴を開けるよりも他人に開けるほうが愉しくなったと言っていた。つまりは、彰吾や美智とはそう遠くない嗜好の持ち主だ。

どうやら戌井は葵が気になるらしく、こうして声を掛けられるのは初めてではない。あの容姿に加え、彰吾たちが熱心に構っている噂を聞けばより一層興味が湧くことぐらいは想定していた。

「ミチさんにもお願いしたけど、ダメって言われちゃって」
「じゃあダメなんじゃねーの」
「だからショーゴさんにお願いしに来たんですってば」

今まで特定の相手に執着することのなかった彰吾たちにとって、葵が特別に可愛い存在であることは戌井も分かっているらしい。だから勝手に手を出さず、一応はこうして筋を通そうとしてくる。

「あの子、そんなにイイんですか?なんかリアクション薄くてつまんなそうだけど」

最初は彰吾もそう思っていた。教室にポツンと座る葵の横顔は美しかったが感情のない人形にしか見えず、美智に手を引かれるまま大人しく着いてくる気質も好みではないと感じた。けれど、実際はこうしてすっかり葵に翻弄されている。

ただ、それをあえて戌井に教えてやる必要はない。

「その通り、つまんない。それで満足か?」
「いや、それ絶対ウソじゃん。最近二人ともあの子以外抱いてないでしょ。よっぽどイイんだろうなって皆言ってますよ」

そう噂されているのも知っている。噂にとどまらず、戌井以外からも堂々と探りを入れてこられたこともあった。

話しかけ辛い部類に入るであろう彰吾でもこれだ。葵も何かしらのちょっかいや声かけは食らっているかもしれない。あの頼りない世話役はきっと防波堤にはなってやれないだろう。

「混ざるのもダメ?」

適当にあしらっても戌井は引く気配を見せない。葵以外なら戌井と共に遊んでも構わないとは思うだろう。実際彼と組んだ経験はある。けれど、葵を誰かに抱かせるのは嫌だとはっきり感じる。それが戌井でなくてもだ。

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