If Story

▽ 3


「葵さん」

迎えの車に近づく前に、葵を呼び止める。すぐ後ろを歩いていた葵もそれにならって颯斗を見上げてきた。

「明日は一緒に行きますか?食堂」

委ねるような聞き方は卑怯だと思う。けれど、今更共にランチをなんて誘いをするほうがおかしい気がしてしまう。

葵は颯斗の言葉が意外だったのか目を丸くしたけれど、いつものように素直な頷きは返ってこなかった。

「明日は遊ぼうって、長谷部さんが」

遊ぶ。それが意味することが何かぐらい容易に想像がつく。今日は共に食事をして過ごしたから、明日はまた葵を貪る気なのだろう。

「それでいいんですか?」

葵はずっと受け入れることでしか自分の身を守ってこなかった。だから無視をするとか、拒むとか、そんな選択肢が葵の中にないことは分かっている。颯斗の問い掛けにも、案の定戸惑う視線を返してきた。

だから颯斗はそれ以上無駄なやりとりは続けず、歩き出す。葵も少し遅れてついてきたが、校門を出る前にくいと袖を引かれた。

「颯斗」

振り返ると、葵はじっとこちらを見上げてきた。

「明後日は?」

何を言われたのか、すぐには理解できなかった。でもそれが少し前の颯斗の問いへの葵なりの回答なのだと分かる。

「明後日は土曜日ですよ」
「あ……そうか」

だから午前で授業が終わり、そして葵は自宅で昼食をとるはずだ。颯斗と食堂に行く機会はない。あまり感情の読めない葵が、あからさまに残念そうな顔をするのが珍しくて、そして可愛いと、素直に感じる。

「来週、行きましょう」

こんな颯斗の言葉で簡単に表情を綻ばせるところも。

何を考えているか分からない。むしろ何も考えずに流されているだけ。葵をそう評価していただけれど、おそらくそれは間違いだ。葵なりに思考し、そして行動している。

颯斗の些細な言動に傷付くし、喜びもする。当たり前のことを今更実感するなんて、自分がいかに愚かかを思い知る。

「葵さん、ごめんなさい」

何の謝罪かと問われたら、きっと全てと答えるしかない。

でも葵は颯斗の突然の謝罪に触れることなく、ただ穏やかに微笑みを返してきた。

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