If Story

▽ side颯斗


葵が現れた時食堂中がざわめいた、というのは大袈裟な表現ではないと思う。すでに食事を始めていた颯斗も手を止め、思わずそちらを注視してしまった。

葵を連れていたのは美智と彰吾の二人だった。何やら会話をしながらメニューを選ぶ姿には大いに驚かされた。あの二人とはただ性的に搾取されるだけの関係だと思っていたからだ。

「やっぱりさ、付き合ってんの?」

共に食事をしていた友人の一人が颯斗にそんなことを聞いてくる。あの二人が葵に固執しているが故に、妙な噂が立ち始めたことは知っていたが、きっと今日の出来事はそれを後押ししてしまうに違いない。

「そんなわけないじゃん」
「だよな。ていうか、三人で付き合うって意味わかんないし」

噂はあくまで噂。はなから信じてはいなかったのだろう。颯斗の否定に彼らはあっさりと引いてみせる。そのぐらい、美智や彰吾は恋愛のイメージとかけ離れているのだ。

でも、三人でテーブルについて食事をする姿はそれなりに親しい関係には見える。葵の表情にも怯えた様子はない。保健室での一件で、簡単に手懐けられてしまったのだろうか。

それならそれで颯斗には関係ないことだ。そう思うのに、どうしても割り切れない。傷付けられているはずなのに、逃げるどころか、なぜあんな風にランチなんて楽しめるのだろう。

もやもやとしたものを抱えながら食事を終え、友人たちと連れ立って食堂を出ようとすると、なぜか美智が颯斗を呼び止めてきた。テーブルのほうを確認すれば、葵はまだ彰吾と共に席に残っている。

「……何か?」
「何か、じゃないよ。葵は財布持ってない。そんなことも把握してないの?」

てっきりまた葵との時間を作れだのなんだの言われるのかと思ったら、全く思いもよらないことを切り出された。美智にいつものにこやかさはなく、呆れと、そしてどこか苛立ったような目をしている。

「財布って。え、そんなわけ」
「ないって?じゃあ葵に確認してみな。お金がないから今まで一度もご飯食べられなかったんだって」

美智に嘘をついている様子もない。それに、言われてみれば葵の姿を食堂でも、購買でも見かけたことはなかった。

美智たちに連れ出され始める前は颯斗が出ていく時も、そして教室に戻った時も、いつも変わらず自席に座っていた。少食であることは知識として知っていたから、単にそんな気分なのだろうぐらいに思っていたのだが、どうやら答えは違っていたようだ。

「そのぐらい、自分で気付けよ」

珍しく荒い言葉尻でそう言い捨てた美智は、またテーブルに戻って行ってしまった。事実を知って、言わずにはいられなかった。そんな雰囲気だった。

昼休みの間、好き勝手葵を抱いている人間に言われたくない。まして、責められる謂れは絶対にないはずだ。それでも、意図的ではないにせよ、葵を飢えさせていたのは間違いない。

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