If Story

▽ side颯斗


翌日から中間試験が始まるというのに、葵はまた放課後まで教室に戻ってこなかった。

呼び出しも三回目を迎えると、葵を好きに貪れる上級生に対しての羨望の他に、大人しく応じる葵を“淫乱”だと嘲笑う声もちらほらと聞こえてくるようになる。

葵の様子を見れば、好き好んで抱かれているわけではないはずだ。自分の身を守る方法がそれしか分からないだけ。それを知っている颯斗は、こうして葵の知らぬところでさえ、彼の尊厳が穢されていくことにやりきれなさを覚えてしまう。

保健室のベッド脇には、また美智と彰吾の姿があった。葵を抱くという用事が済んだのならさっさと帰ればいいのに、どうして彼らは眠る葵に付き添うなんて真似をするのだろうか。

美智にいたっては、布団から覗く葵の髪に指を通して労わるように撫でてさえいる。こんな目に遭わせた張本人がとる態度ではない。

「葵さん、帰りましょう」

美智たちの存在を無視するようにただ葵だけに声をかけ、布団をめくる。体を丸めていると、平均よりもずっと小柄な体がより小さく見えた。

「……ん、はや、と」

こちらを見つめる目元はまた紅くなっているし、声も掠れていた。それだけで、葵がまた今日もひどく弄ばれたのだと分かる。

重たそうに身を起こした葵は、この場に美智と彰吾まで居ることに気が付き、少し驚いたようだった。反射的に颯斗の制服の袖口を掴んできたのだから、やはり葵にとって彼らは怖い存在なのだろう。

「おはよう、葵。途中で水飲ませてあげればよかった、ごめんね」

葵の反応にはまるで気にした素振りをみせず、美智は的外れな謝罪を口にする。そして乾いた唇を癒してやるかのように、ごく自然に葵を引き寄せてキスまでする始末。

「ちょっ、何してるんですか」

それ以上のことに及んでいることは分かっているが、たかがキスとはいえ、目の前で交わされれば口を挟まないわけにはいかない。だが、先ほど颯斗が美智を無視した仕返しか、まるで構わずにより深く唇を重ね出すから腹が立つ。

他人のキスシーンをこんな間近で見たことはなかった。美智の舌が葵の唇を割り開き、まさぐるたびに響く唾液の絡む音。生々しくて、颯斗には不快でしかない。それなのに、どうして目が離せないのか。

「……ッ、やめろって」

葵に掴まれたままの袖口が助けを求めるように控えめに引っ張られてようやく我に返った颯斗は、葵の肩を抱き寄せて美智から距離をとってやった。だが、それでも美智はちらりとこちらを見遣っただけで、またすぐに視線を葵に戻す。

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