If Story

▽ side馨


「葵はきちんと登校させてるんだろうな?」
「ええ、今日も学校でお勉強してますよ」

高校の入学時期に間に合ったというのに、結局葵を高校に行かせたのは五月に入ってからだった。それを父は未だに怒っているらしい。こうして仕事の話の合間にさえ確認してくる。

美しくもない制服を着せ、日中ずっと同年代の男子生徒に囲まれて過ごさせる。馨にとっては何とも耐えがたい行為である。

初めは時差が理由の体調不良、その後は慣れない日本暮らしでストレスがかかっているとかなんとか適当に言って、父に現状を聞かれるたび登校を見送っていると説明をしていた。

結局、痺れを切らした父の調べで、馨が入学の手続きすら終えていなかったことが明るみになり、転校生という扱いで登校させる羽目になってしまった。

「いつまで人形遊びを続けるつもりだ」

馨が葵にどんな愛情を抱いているか。そして何をしているのか。父はよく知っている。馨が隠しもしていないから当然といえば当然だ。

「いつまで、と言われても。やめなくちゃいけない理由はないはずですが」

葵は馨の所有物で、誰に口を出される謂れもない。そう主張すれば父は呆れたように溜め息をついた。

葵が幼い頃は本当にただ綺麗な衣装を着せ、写真におさめ、抱き締めるだけで満足だった。だから父も馨の愛が歪んでいるとは察しつつも黙認していたのだ。

父の監視が届かぬ海外での生活を始め、葵の成長に合わせて少しずつ秘めていた欲望を実現させていった。まだ取り返しのつくうちに葵を引き離していれば、そんな後悔を父が抱えているのは知っている。

でもどう転んでもこうなる運命だったと馨は思う。

仕事を片付けて帰宅すると、使用人からは葵が熱を出して寝込んでいると告げられた。体が弱いことは知っている。だから特に疑問にも思わなかった。

ベッドに歩み寄ると、葵はすでに静かな寝息を立てていた。火照った体を冷ますように、額にタオルを乗せている、そんな姿すら愛らしいと感じてしまう。

「ただいま、葵」

ベッドに腰掛け体温を確かめるように首筋に触れれば、馨の手が冷たかったのかぴくりと体が震える。だが、まだ目は覚めない。

寝かせてやりたいとは思うが、今朝も葵には会えずに出掛けてしまった。せめて瞳には映りたい。

「起きなさい」

ほんのりとピンクに染まる耳朶に舌を這わせながら囁けば、葵はようやく身じろぎをして、そして瞼をゆっくりと開いた。熱のせいか、蜂蜜色の瞳は潤んでいる。

羽布団を捲り手を差し伸べると、葵は気だるげにしながらもゆっくりと体を起こし、そして馨の腕の中に潜り込んでくる。

いつもよりも熱い体。まるでセックスの合間のようで、それだけで馨を興奮させる。

「可哀想に。やっぱり外の世界は葵には向かないね」

発熱した体を無理に暴けば、さらに何日も葵が寝込むことはすでに実証済み。だから馨は欲を抑え、ただ哀れな葵を慰めてやることにした。

額に張り付いた髪を指で払い、顔中にキスを落としていく。涙の滲む目元や、自分に似て華奢な鼻筋、柔らかな頬。それらを通り行き着くのは桃色の唇。

「ん……ッ」

優しく啄んでやると、嬉しそうに唇が開かれた。もっと深いものを求める仕草も、馨が仕込んだもの。

「寝かせられなくなっちゃうよ。それでもいいの?」

淫らな誘いをしていると自覚させれば、葵は照れたように瞼を伏せ、そして小さく頷いた。そう、この子に拒否することは教えていない。だから馨の全てを受け入れてしまう。

「本当に可哀想な葵。早く治しなさい。休んだ分、たくさん可愛がってあげるからね」

再び数度唇を食んだ後、馨はそれ以上の悪戯はせず葵をベッドへと戻してやった。それすらも葵は頷き、馨をまっすぐに見つめ返してくる。

「おやすみ。いい子にね」

馨が何よりも気に入っている淡い色をしたブロンドを撫でると、葵はきちんと眠りに戻る姿勢を見せた。

この様子ならば、明日は熱を下げ、馨の相手が出来るかもしれない。期待に胸を弾ませ、馨はもう一度人形にキスを贈った。

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