Happy Birthday Levi 25/12/2019
10 Because I Love You
毎日、毎日、当たり前のように朝が来て、そして夜が来る。
日々はその繰り返しだと思っていた。
この三重の壁で守られた楽園が壊れる日なんて未来永劫、来るはずなんかない。
誰しもがそう思っていた。
調査兵団が日々死に物狂いで、人類が奪われた活動領域を取り戻す為に壁外へと進撃を続けている。
死地に赴く彼らに対して冷ややかな目を向けて、この壁の中で暮らす我々人類はとても平和だった。
あの日…。
シガンシナ区が巨人に攻められ、ウォール・マリアが陥落する悪夢の日まで。は。
そしてウォール・マリア陥落以降、人類の最重要防衛地区となったトロスト区で生まれた私。
そして、そんな私を何不自由なく育ててくれた両親。
「お前もそろそろ結婚適齢期だからな!将来の相手を決めないと、お父さんがお前にふさわしい相手を絶対に探してくるからな!」そう、嬉しそうにお見合いの話を進めてくる父の期待を誤魔化しながら日々を生きていた。
仕事柄色んな人とのつながりのある父親は、貴族から憲兵団のエリートまで、日替わりで私の将来の旦那様を品定めするように肖像画を持ってくる。
色んな男性の肖像画を見せられてもどう反応すればいいのか、最近はもう乾いた笑いしか浮かばない。
何の変わりばえもしない、そんな私の日常。
このまま誰かと結ばれる事もないまま私は老いていくのだろうか…。
今度はシガンシナ区と同じここ(トロスト区)が超大型巨人に壁を破壊されて死ぬのが先だろうか。
不安な心を置き去りにまた季節は巡る。
朝晩の冷え込みが厳しくなってきて、起きるのがつらくなってきて。
目を覚ますべく無理やり寒い風を室内に取り込もうと窓を開けて灰色の空を見上げれば、降り始めた雪が冬を知らせる。
訪れた冬の合図に瞳を細めた。
吹きすさぶ木枯らしに耳がちぎれそうな程の寒さ。
ちらちらと微かに舞い散る雪。もうすぐまた巡るあの季節へと私を誘い、そして移ろいで行く。
…私の心など置き去りにしたままで。
救い主の生誕祭を控え、周囲は救世主の待降節(アドベント)を待ち望んでいる。
そんなことを思いながら仕事終わりの、誰も居ない店の酒場。
昨日は炭鉱の男たちが酔っ払って殴り合ったり女の人に絡んでは騒動を起こして憲兵団が駆け付けたりと何かと忙しかった。
まかないの食事を口に運びながら私は割れた瓶の中の微かに残った酒を一口飲み込み大して豪華でもない豆料理を流し込んだ。
過去の苦い記憶もこの酒がみんな流してくれれば良かったのに。
…私の今も忘れられない恋だ。
今も忘れられない。瞳を閉じれば思い出す。
私を見つめるあの人の男らしく、鋭い眼差しを…。
▼
あれは2年前の出来事。
あの頃の私は精神的にも未だ幼くて、自分の主張ばかりを押し付けてばかりいて、未熟者だった。
「おい、調査兵団が壁外から帰って来たぞー!!」
「どーせ、また死んだんだろう?」
「ったく、本当に、毎回毎回俺達の税金を無駄にしやがって…今日は何人死んだんだろうな、」
調査兵団が壁外調査から戻って来る。開門を知らせる鐘の音が響く。
外から聞こえたうんざりしたような平民たちの声。
人類の失われた尊厳を取り戻すべく、駆け抜ける調査兵団の帰還を聞き、ただ税を収めているだけの住民達は、今日は何人の調査兵団が死んだのか、見物がてらに大通りにぞくぞくと集まってきている。
「あんだけ騒がしく出て行ったのにもう帰ってくるのかよ?」
「今回は何人減ってるかな〜??」
「そのうち全員死んで誰も帰ってこなくなるんじゃねぇのか?」
「そっちの方が俺達的にもちょうどいいんだけどな。俺達の支払う税が安くなるかもな!」
口々にそう呟き、開門を待つ住人たちの言葉を聞きながら、私は後ろから不謹慎な言葉を述べる者達を蹴っ飛ばしてやりたい衝動に駆られながら、人ごみの中を突き進んでいく。
確かに、今回の壁外調査はいつも以上に帰ってくるのが早いんじゃないかと…、そしてなんだか酷く嫌な予感がしてたまらない…。
まさか、調査兵団の身に予期せぬ緊急事態が起こったんじゃないか…。
不安になり、私は開かれた門をくぐり抜け馬を歩かせながらトロスト区に帰ってきた調査兵団へ視線を向けた。
早く、早く…どうか。
待ちきれずにその声と開門を知らせる鐘の音に耳を澄まし、慌てて人だかりの中に飛び込んでいくと、私の視界の先に飛び込んで来た悪夢のような光景にただ絶句した。
布で覆われた遺体。
包帯に全身くるまれた者。
四肢を失い命からがら生き延びるも既に虫の息の状態の者。
顔に包帯を巻いて識別困難な者まで。
出発前、あんなに大勢いた調査兵団の兵士達の姿はなく、残った者達も負傷し、誰もが失意に暮れたような表情をしていた…。
「なんだなんだ…今回はいつも以上にひどい状況だな…」
「本当だな…半数は見たこともねぇ巨人に食われて慌てて引き返して逃げおおせられたらしいぞ?」
「じゃあ何だ?今回のは結局ただ無駄に人を死なせただけだって言いたいのか?」
「回収できない遺体もあったらしいぞ…」
ああ…まただ。
ズキンと、胸が激しく締め付けられそうになる。
この群れの中に確かにいるはずの彼を探し求めて私は見物人を次々と突き飛ばしながら、血眼になりながら、黒い馬に跨ったあの見慣れた艶やかな黒髪を探し回る。
どうか無事でいてと、ただひたすらに願った。
「見て!エルヴィン団長よ!」
「相変わらず紳士で素敵…」
聞こえた通行人の女たちの黄色い声の先に白馬に跨った、気品あふれる佇まいのエルヴィン団長の姿が見える。どうやら調査兵団のトップである彼は無事らしい。
そしてその後ろ、幹部たちの輪の中で見えた黒髪に私は今にも泣きそうになりながらその姿が今日も見れた事に安堵した。
「あ!見てっ!!リヴァイ兵長だわ…!」
「かっこいいわよねぇ…それにとっても強いんでしょう?みんなあんなに大怪我してるのに傷ひとつないわよ、」
「本当だわ…巨人相手にもあんなにも顔色一つ変えずに…是非お近づきになりたいけれど、恋人いるよね…」
「そうに決まってるわよ、彼のおかげで調査兵団の生存率が上がったんだって聞いたわ!」
馬の上で顔色一つ変えずに老若男女問わず誰もが「人類最強」の姿に見惚れていた。
さらりとした黒髪、ナイフのように研ぎ澄まされた双眼、まるで貴族のように上品な出で立ちの彼はかつて地下のゴロツキとしても有名だった。
そんな中でエルヴィン団長のスカウトを受けて地上に上がってきた過去を持つ。
私の…最愛の人。
「リヴァイ…」
思わず口から零れ落ちた言葉にただ、ただ、彼の生を噛み締めていた。
ああ、本当によかった、今日も無事だった…無事に壁外から戻ってきてくれたんだね…。
変わらぬ愛しい姿、今にも崩れ落ちてしまいそうになるのを堪えながら、私は彼の帰還を心の底から喜んだ。
調査兵団は壁外調査が終わると暫しの休養に入る。
次の壁外調査までの期間、英気を養い、傷を癒してまた壁外に向かうのだ。
私たち人類の為に、危険を覚悟で。
税金泥棒なんかじゃない。命懸けで挑み巨人と戦い続ける彼らを、私はとても誇りに思う。
彼が帰ってきてくれたことを感謝しつつ、そうしてまた訪れた冬の季節の中で、救世主の誕生を祝う待降節のこの時期は、子供だけではなく大人達も心なしか浮足立ち、誰もが25日当日の訪れを待ちわびるのだ。
それは私とて、例外ではない。
まして、その日は私にとっても特別な日だから。
彼に出会いこうして彼の「恋人」となった今だから尚更そう思う。
救世主と偶然、同じ日に生を受けた彼の誕生日に向けて、私は子供の頃よく母が私のために用意してくれた「アレ」を物置き箱から引っ張り出してきた。
「よし、」
この壁の世界の者なら誰もがおなじみ、アドベントカレンダーだ。
アドベントカレンダーとは、12月25日の生誕祭前までの24日間の期間を待ちわびながら、人々は待降節までの日々をカウントして楽しむ為にこのカレンダーを使う。
その家庭によってデザインは様々だけど、1から24まで並んだ小さな引き出しが付いている。
25日まで毎日その日付の小窓にちょっとしたお菓子とか、ささやかな贈り物を入れて当日までの期間をカウントしながら過ごす、ちょっとした楽しいカレンダーだ。
子供の頃は毎日小窓に入ったお菓子が待ちきれなくて楽しんでいたことを思い出す。
まぁ、大人になった今ではシュトーレンを焼くだけだったけど。
彼に出会いこうして彼の誕生日が救世主が誕生した日と同じだと知り私にとっては大切な日となった。
彼との出会いを思い出す。
酒場で酔っぱらいに絡まれていた私を助けてくれたことが縁で何度かお店で話すようになり、そして、次第に彼に惹かれていく自分が居て。
何度かお店に来た彼が自分を同じ気持ちでいてくれたことが本当に今も夢みたいで、深い中になるのに時間はかからなかった。
偶然にも生誕祭と同じ日に生を受けた彼と知り合い、こうして同じ時間を共にするようになってから指折り数える彼の誕生日。降誕祭にまた新たな楽しみが増えた。
カレンダーの中のお菓子を待ちわびはしゃぐ私に「お前はガキみてぇだな」
そう、言いながらも優しく私の頭を撫でてくれる彼が愛しくて。
普段あまり感情を表に出すのが苦手だと思っていた彼がこんな風に優しく微笑むなんて知らなくて。
2人でこうして日々を重ねながら確かな愛を育んでいた。
そんな私たち人類の為に巨人を絶滅させると言う揺るぎない決意のもとに死地に赴いているリヴァイ。
彼がまた命あって生還して戻ってきてくれたことがうれしくて、私は彼が来るのを待ちわびた。
心配事は常に絶えないが、こうして彼と過ごす誕生日もこれが二度目。
彼が生まれてきてくれた日をまたこうして彼と生きて祝うことが出来る特別な日。
感謝しかない。突如調査兵団に舞い降りた彼自身がこの世界の救世主かもしれない。
だからこそ、彼がまた帰ってきてくれるように願いを込めて今日は彼の為に腕によりをかけて準備しよう。
私は、はりきって彼がいつも壁外調査を終えると迷わず私に会いに来てくれることを楽しみにささやかなご馳走を作り始めた。
***
「あ、いらっしゃい!リヴァイ」
夜も更けた頃、聞こえたノックの音。きっちり三回。
几帳面さがうかがえる規則正しいその音に慌てて鏡越しに髪型を整えながら、ドアを開けると、調査兵団のロングコートを着て壁外調査の報告を終えたのかリヴァイがやや疲れた表情を浮かべて立っていた。
「わぁ…大丈夫?手が、すごく冷たいね…」
「寒い、今夜は特に冷える。雪が降りそうだな」
「うん、そう、だね…とにかくあがって、部屋、暖かくしてたんだ。あとね、またいつものアドベントカレンダーとシュトーレン…んん!」
「お前に会いたくてたまらなかった…」
「リヴァイ…」
そう静かに吐き捨て、多くの部下を死なせた自責と、その胸に空いた穴。
痛みをぶつけるように求めるように激しく唇を重ねてくるリヴァイ。
壁外調査に向かう度、奪われた人類の活動領域を取り戻そうと、調査兵団は死に物狂いで命を散らす。
そして、その度に誰よりも優しいあなたは部下の死に胸を痛めて、一人見えない心から血を流していた。
その辛さを発散するように縋るように唇を重ね合う。
この瞬間を待っていた自分が居る。
恥ずかしいと思う感情さえも感じないほどに、私も彼もお互いに溺れていた。
私に触れる大きな手が恋しくて、たまらなかった。
「お前も好きだな、相変わらず」
「リヴァイのお誕生日も一緒にカウントダウン出来るでしょう?」
「お前は単にこの中に入ってる菓子が食いてぇだけだろうが…」
「そ、それは…」
寝室に飾っていたアドベントカレンダーを見つけた彼がその引き出しを開けて、中に入っていたチョコレートをつまんで私の口に放り込んだ。
未だ日付は…その声を投げかける前に、懐中時計は既にカウントダウンは始まっている事を知らせていた。
「リヴァイのお誕生日、今年も一緒にお祝いしようね。約束だよ?」
「ああ、」
最初はあなたを怖い人だと思っていたけれど、言葉数が少ないだけで…拙いだけで、本当はとても不器用な人なんだって知ってからは、そんな彼が愛しくてたまらない。
彼はいつもその力強い腕で、そして行動で、私へ惜しみない愛を注いでくれる大切な人。いつも優しさをくれる。
そりゃあ、本音はもっと一緒にいて欲しいし、いつ死ぬかもわからない危険な壁外へなんて行ってほしくない。
それに…彼にあんまり目立ってほしくない気持ちもある。
今では兵士長として名を馳せ、そんな勇猛果敢で人類最強とまで呼び声の高い彼を知らない女性は誰も居ない。
恐らくモテるんだろうと…そう、思う。
どうして私と付き合っているのか私自身が不思議に思うんだから尚の事、そう感じていた。
そして、事件は起きる。
「う〜寒い…寒い…」
毎日、毎日、アドベントカレンダーの引き出しの中のお菓子が空っぽになっていく。
そうしてから引き出しがどんどん開けられるたびに私は彼の事を思い、そして彼に会える日を心待ちにしながら、とうとう23日の箱の中のチョコレートがなくなった。
あと残る最後の一つの引き出しの中のチョコがなくなればリヴァイの誕生日となる。
明日からまた彼は私の家に来て、二人でささやかな生誕祭と彼の誕生日を祝うのだ。
調査兵団本部には残念ながら一般市民は立ち入り禁止だから、私は仕方なく兵団本部に近いウォール教の教会の近くでサプライズでお迎えをしようと待ち伏せしていた。
辺りは既に薄暗くなり始めている。
見上げた聳え立つ大きな真白の壁、それが巨人から自分達を守ってくれていると信じて壊れる日が来るなんて信じられなかった。
びゅうびゅうと吹きすさぶ冷たい風、痛みすら感じるくらいの寒さに支配されながら、私は寒さに負けてたまるかと、巻いていたマフラーをきつく巻いて彼が来るのを待っていた。
「(まだかな…)」
期待に胸を高鳴らせ、手袋で手を擦りながら、彼が正門から出て来るのをずっと待っていた。懐中時計で時間を確認しながらいつ彼が来てもいいようにと、その場を離れずに待ち続ける。
それなのに…彼は一向に姿を現す気配が無い。
そろそろかな…。
まだかな…。
しかし、待てども待てども彼は一向にその姿を現す気配が無い。
冬の日没は早くて、あっという間に夜の闇が街を包み込んでいく…。
彼の姿はまだそこにはない。
仕方ないよね、サプライズなんだから我慢も必要だよね。
そう言い聞かせて彼の姿を待ってみたけれど、全然その姿を現さない。
リヴァイ…、一体何があったの??
「リヴァイ!?」
「…ねぇ、そこのお姉ちゃん、一人で何してんの?」
「ひっ!」
その時背後から聞こえた声に彼が来たのかと振り向くと、そこには彼ではなく薄汚い笑みを浮かべた酔っぱらいの姿があった。
紛らわしい。いったいなんだと言うのか。突然暗闇から伸びてきた手に驚きを隠せない。
まして、リヴァイだと期待していた分、彼ではないとわかった時のショックと言えばなおさらだ…。
無視して少しその場から離れようとすると男は下世話な笑みを浮かべて私の肩を抱いてきた。
「何ですか?しつこい、離してったら…!」
「君さ、さっきからずっとここにいるよね?何してるの?」
「それは…別に、放っておいてください…!」
「リヴァイ兵長なら…来ないんじゃないの?」
「…は?」
突然そう言われて自然にその声が漏れる。
何で彼が来ないことを兵士でもないこの男がわかるのだろう、訝しげに眉を寄せれば男はげらげら笑いながら、私にある方向を指さしていた。
「見えなかった?別の出口から可愛い女の子と一緒に出て行ったよ??」
その言葉に私は鈍器で頭を殴られたような衝撃を受ける。
まさか、不器用な彼に限ってそんなわけない、信じられない。
しかし、その男が指し示したその先で私が見た光景は紛れもない現実だった。
私の視線の先では、彼が女の人と寄り添い歩いているじゃないか…。
俄には信じられなくて、でも、それは現実で。
小柄で明るい髪をした可愛らしい女の子だ。
歳もきっと私より若い、それに何よりもとってもかわいい。
端から見たら絵になるのはあの二人の方だ…。
「かわいそうに…まんまと騙されちゃって、ねぇ、…だから俺と遊ぼうよ、」
有無を言わさず肩を抱かれ、私はあの光景から目を離せないまま、呆然と引きずられるようにその場を後にした。
頭の中は色んな感情が渦巻いていた。
リヴァイ…どうして???私はやっぱり単なる遊び、だったの???
一緒に誕生日を迎えようねと、話していたじゃない。
その日の夜。
何とか自宅に戻ってくると当たり前だけどそこにリヴァイの姿はなかった。
もういい、もう、知らない。
何もかもがどうでもいいと、私はアドベントカレンダーの最後の引き出しを開ける気力もなく、そのまま暖炉の火もつけないままで寝室のベッドの中に潜り込んだ。
彼と幾度も抱き合い眠りについたベッドが今はとても広く感じた。
小柄なのに、兵士らしく、そして鎧のような筋肉で覆われた体躯。あの体に抱き締められると安心して眠れた。彼が居ない夜も彼に抱き締められた夜を思い出せば寂しくはなかった。彼がいれば孤独や不安、何もかも満たされた。
でも、今の私は泣きたくなるくらい一人だ…。
リヴァイ、どうして、何で、あの人は誰なの?
返ってくる事のない問い掛けの中、ふいにノックの音が聞こえた。
規則正しい三回のノック。
リヴァイが来た?
「リヴァイ…?リヴァイ、なの??」
足をもつれさせながら慌てて寝室から飛び出すと、私はドア越しに誰?と、声を掛けた。その声は自分が思うよりも酷く冷たい。
「俺だ。悪ぃ、すっかり遅くなっちまった。早く開けろ、寒くて凍えちまう」
酷く弱々しい声にドアを開けていつものように彼を迎え入れようとする。
しかし、私は先ほどの光景を思い出して彼を冷たくあしらう。
「…さっき女の人と一緒にいたから寒くないでしょう?
とっても仲良く寄り添って歩いてたし…。さぞ、お楽しみ、だったんじゃ無いの???」
「見てたのか…?お前、何馬鹿な事言ってやがる、あれは「もういいよ!」
もううんざりだ、聞きたくはないと私は弁解の言葉さえも聞かずにドア越しに叫んでいた。
「私だけだったんだね…あなたを好きだったのは…!!
私がいつもどんな気持ちで毎回毎回壁外調査に向かうあなたを待っていたか、…もう聞きたくない。
とっととその女の元に帰ればいいじゃない、同じ兵士同士の方が同じ傷…慰め合えるもんね…」
「オイ、」
「さようなら。もう来ないで、浮気者。
調査兵団なんかもうとっくに終わってるじゃない、将来も望めなさそうだし…」
自分でも驚くくらい冷ややかな笑みを浮かべていた。
違うと言ってほしかった、俺が好きなのはお前だと、本当は。
ドアを蹴破りながら言ってほしかった。
だけど…。
そのまま無言で何も言わずに去っていくリヴァイを引き留める事もなく、リヴァイもそれ以上はもう何も言わずに、たぶん図星過ぎて何も言えなくなったんだ。
それか、私の浴びせた暴言に呆れたのかもしれない。
遠ざかりやがて聞こえなくなった足音、私はその場に膝を抱えて泣き崩れた。
彼の為に毎日毎日一生懸命働いて、残業までして一生懸命稼いで手にした賃金で買ったブーツはもう意味が無い。
こんな呆気ない形でまさか恋が終わるなんて…。
2回目の誕生日を迎える前に私たちの、私の恋は儚く舞い散る初雪に浮足立つ人々の群れの中に消えてゆくように、静かに終わりを告げたー…。
▼
彼とはそれきりだ。
嫌でも調査兵団の噂はトロスト区に居れば流れるので彼が今も生きている事だけは知っていた。だけど、もう彼とは二度と会うことは無いのだろう。
あれから2年の歳月は目まぐるしく、私は毎日の忙しさに追われてあっという間に過ぎていった。
彼と別れてからの方が、やけに時間の流れが早く感じた。
私はあの家を引き払い、調査兵団がよく来ていた酒場で彼と出くわすのも気まずくなり、仕事も変えて、過保護な父親に心配されて実家に帰ってきていた。
そして、今年もまたあの季節が来る。
外は肌寒く、彼と過ごした思い出の雪舞い散る季節に。
「それで…そろそろ式の日取りなんかも決めていきたいと思うのですが…」
「ああ、そうですね」
昔の自分が聞けば気が遠くなりそうな場所に私はいた。
並んだカトラリー、肉を使った豪華な食事。暖かな火の灯るキャンドル。
上等な化粧、私の唇に引かれたルージュ。上等な服を身に纏えば私が平民だとは思わないだろう。
トロスト区生まれの私とは縁がなさそうなウォール・シーナのエルミハ区にある高級なレストランにいた。
「いや、でも…本当にこんなにも若くて美しい君が僕の花嫁になってくれて…本当にうれしいよ」
「そんな…私こそ…、あなたのような素晴らしい方のお嫁さんになるなんて…私にはもったいないわ」
「そんなことないよ、本当にありがとう。君のお父さんからどうしても会ってくれと言われてそしたらこんなにも綺麗な子が僕の花嫁に…なるなんて」
彼と別れてからの私は嫌という程自分の未熟さを思い知った。
常に自己嫌悪と後悔の日々だった。
今までリヴァイとの思い出の中で生きていた私。
彼を拒んだのは私なのに…あれから流れた月日は私を良くも悪くも冷静にさせた。
そして今になって日に日に増していく後悔の日々を過ごしている。
寒い中合いに来てくれた彼を追い返したこと、何か理由あったかもしれないとあの時より大人になった今ならそう、思うのに。
いつまでも嫁に行かない結婚適齢期の私が行き遅れる事を危惧した父のしつこいお見合いしろコールをいつまでも無視するわけにもいかず…。
仕方なく未だマトモそうで一生楽させてくれそうな名家のおぼっちゃまとのお見合い話はとんとん拍子に進んだ。
もう、アドベントカレンダーではしゃいだり、シュトーレンを焼いて食べたりする事もない。
目の前のこの人は確かに見た目も口調もリヴァイとはまるで違う。だけど、だけど…何か物足りなさを抱いてしまう。
いつ相手が死ぬのかわからない恐怖に悩んだりしなくていい、彼は死とは無縁の人間だし、まして内地での快適な暮らしが私を待っている。
「おいおい、また調査兵団が壁外で大勢死んだらしいぞ」
「ウォール・マリアが巨人のせいで陥落してからもう数年も経つのにまだ奪還作戦の基盤も出来てねぇままなのか?」
「何やってんだよ全く、エルヴィン団長やリヴァイ兵長は…」
「なぁ、それで結局あの男が調査兵団に入ってから実績とか残したのか??」
その時、背後の方で忘れたはずの彼の名前が聞こえてきて、私はとっさに振り向いてしまった。
すると、そこにいたのは仕事中にもかかわらずのんきに酒を飲んだくれている一角獣のシンボルを背中に宿し酒を飲む憲兵団の姿だった。
「どうせなら最初の奪還作戦の時みたいに無駄に兵士死なせるだけなら一般市民を作業員に連れて行けばいいんじゃねぇのか?」
「ああ、それいいかもな。俺達がくいっぱぐれる事も無くなるし、」
周囲の雰囲気などお構いなしにのんきにそう並べ立てる憲兵団を見て私はたまらず立ち上がっていた。
「ちょっと、憲兵さんたち」
「何だ?」
「そこでべらべら喋って暇なら真面目に仕事したらどう?
それに…あの人たちは人類が巨人に奪われてしまった領域を必死に取り戻す為に活躍しているのにあんた方は壁の中の一番安全な世界で使いもしない猟銃を振り回していい気になっているだけでしょ?おいしい食事の邪魔、出て行ってよ」
「何だと…てめぇ、女だからって偉そうに…いい気になりやがって」
「公務執行妨害で逮捕するぞ」
「はぁっ?何で私が!?」
マトモな事言われて図星なのは彼らなのに。
憲兵団とは名ばかりの…必死に今も戦っている彼らとは大違いの集団へ文句を言っただけで権力使って公務執行妨害だなんて馬鹿げてる。
腕を掴まれ連行されそうになる中で、ふとさっきまで私と結婚の話をしていた相手はいつのまにやら姿を消している。
まさか…未来の婚約者を置いて逃げたというの???
「ちょっと、離してよ!」
「良いから、来い!」
腕を掴まれ、このまま憲兵団に連行されてしまうのか…、貴族と結婚して楽な暮らしが出来ると思った私の人生は思いがけない方向へ…万事休す!と、そう思ったその時。
背後から聞き慣れたあの人によく似た低い男の声がした。
「オイ、そいつに何か用か」
私の腕を掴んだ憲兵の肩にトンと、乗せられた筋くれ張った男の手。
そのまま顔まで目線を辿る。
そこにいたのは紛れもなく二年ぶりで多少老けた、相変わらず青白く疲れた顔をしているけれど、その双眼は美しく研ぎ澄まされ、本人の几帳面さを体現したように綺麗に整えられた黒髪を揺らした私服姿のリヴァイがそこに居た。
「なっ、リヴァイ兵長?」
「何で内地なんかに…」
「オイ、そんなに調査兵団の人間が私用で内地にいるのがおかしいか?
…俺の大事なツレを離してもらおうか」
そう低い声で言い捨て、リヴァイに睨みつけられた憲兵団達はまるで蛇に睨まれたカエルのように縮こまり、大人しくなるとそのまま動かなくなる。
2年越しに聞いた彼の声は想像の中で張り巡らせていた声よりも低くて、その懐かしさにただ、ただ、両足に杭でも打ち付けられたかのように私は立ち竦んでいた。
「リヴァイ兵長、」
「ペトラ、悪ぃ。後は頼む」
「はい、大丈夫ですよ」
その言葉に、ニッコリ微笑む可愛らしい小動物みたいな子は2年前にリヴァイと肩寄せて歩いていた女の子だった。
ああやっぱりこの子がリヴァイの本命だったんだ。
私服姿で恋人同士が食事を楽しむにはムードもいい雰囲気のお店にいるんだもん、それに、別れてから2年間も経ってるし…そうだよね。
じゃあ、どうしてリヴァイはその子を置いて、後始末を押し付けて私なんかに...。
「大丈夫か、」
「へ?」
「何ボケっとしてやがる。憲兵団に絡むなんて相変わらず余計なことに首突っ込んで。そもそもお前こんなところで何してやがる」
お店を出て、2人で噴水が綺麗な広場を歩く。
懐かしい後ろ姿、相変わらず背筋がしゃんとしてて、手足もすらっとしてて、でも、ちゃんとその身体は鍛えられてて。
そう言えば、と。
私は出会った頃を思い返していた。
あなたと出会った時も、私は酔っぱらいに絡まれてて、困っていた時に助けてくれたのはリヴァイだった。何だかあの頃を思い出す。もう、戻れないのに。
「オイ、聞いてんのか」
「へ?」
「お前の婚約者、逃げちまったな」
「いいの!あんな人、私を助ける前に逃げ出して。あんな人、こっちから願い下げ。
助けてくれてありがとう。ごめんね、大事なデート中に。
私ならもう大丈夫だから、早くあの女の子の所に戻りなよ。リヴァイの本命、可愛い子だね、守ってあげなよ!!」
あの女の子の可愛らしい笑顔がチラついて、私はくるりとリヴァイに背中を向けると馬車を呼ぶために歩き出した。
その時、後ろからガッと、急に力強い腕に羽交い締めにされるように抱き締められて、私はその場に強制的に動けなくなる。
「離してよ…!」
「黙れ」
「大声、出すよ?突然、抱き着かれたって…!」
「出してみろ、別に構いやしねぇよ」
「何で…」
「お前こそ、ふざけやがって…何勝手に自己完結してやがる。一言も何も言わせねぇまま勝手に…。
俺の本命ならとっくにいる。
…どうしようもねぇくらいに真っ直ぐで、危なっかしくて…いい歳して突然ガキみてぇな顔したり、生誕祭待ちわびて嬉しそうにして…そんなの世界のどこ探してもお前しかいねぇだろうが…」
「リヴァイ…」
「とにかく、頭冷やさせねぇともうお前は一度そうだと決めたら、まともに話聞かねぇと思って…落ち着かせようと思って一旦帰った。そしたら俺の話を聞かずにそのまま仕事も家もみんな…俺に何も告げずにいなくなりやがって…。
この2年間、俺がどんな気持ちでいたのかもお前は知らねぇだろうな…」
嘘、じゃあ…あの時の光景は何だったの…?
私の見間違いだって、言うの??
どうしてそんなに悲しそうな顔をするの?
「だって、リヴァイだって…あの時、その…、さっきの子と、仲良しく寄り添って歩いてたじゃない!?私、この目で見たのよ?あの子の方が私なんかよりずっと…だから、リヴァイにとって私なんて、ただの遊びだったんでしょう?」
「んな訳ねぇだろうが…馬鹿野郎!いい加減にしろ!!」
普段、どんな時も落ち着き払って表情を変えたりうろたえたりせず冷静だった彼がこんな風に声を荒げるなんて…。
彼の気迫に息を呑んで黙り込むと、その後ろを先程の小柄で明るい色素の髪を揺らした女の子が息を切らして追いかけてきた。
「待ってください!!」
「ペトラ、お前は来るな」
「ですが…兵長!」
兵長と呼んだその例の可愛らしい女の子が息を整え、私の腕を掴むと静かに話し始めた。
「突然すみません…なまえさん。私はペトラ・ラルと申します。
リヴァイ兵士長の副官を務めています。それで、リヴァイ兵長には今日はみんなで慰労会という事でシーナに連れてきてもらっていたんです。私だけじゃなくて他の班員も居ます、」
「どうして私の名前を…」
「それは…。
…なまえさんはリヴァイ兵長の大切な人、ですから」
何の恥ずかしげもなくさらりと告げた目の前の少女はにっこりと花が綻んだような笑顔を浮かべていた。
その笑顔とその言葉を聞いたこっちの方が恥ずかしい。
こんなにかわいい子がリヴァイの副官だったなんて…。彼は何も教えてくれなかったから…。だって、あの時二人を見かけた時はすごくお似合いだったから。
でも、確かに根は優しいのに、感情を表情に出すのが得意ではない彼は、初対面の人から見れば、怖い人だと誤解されがちだから(実際私もこうして付き合うまでは本当は怖かった)見た目で損する彼の副官を務めるならこういう若い女の子の方が橋渡し的にもうってつけなのかもしれない。
「リヴァイ兵長がいつも壁外調査から戻る度にお姿が見えないので心配していたらなまえさんに会いに行くためだと教えられて…。
それで、リヴァイ兵長が肌身離さずなまえさんの肖像画を持ち歩いていると聞いて見せてもらったんですよ。
あ、なまえさんのお店は私も一度リヴァイ兵長に連れられて行ったことがあるんです」
「そ、うなの…?」
「はい、それで、あの時…兵長は訓練中に新兵が馬から落馬したのを庇って自分が怪我をしたんです。足を負傷して絶対安静だと言われたのに…きっと、なまえさんを待たせているからどうしても外出したかったんですよね?兵長…」
「…」
リヴァイは図星なのか何も答えない…。
だけど、優秀な副官の言葉は、出会った頃から言葉が拙い彼の言葉を私にこうして繋いでくれる。
「松葉杖も格好がつかない、だから嫌だと言うのでなまえさんの家まで私が肩を貸してあげる事にしたんです。ただ、それがなまえさんに大きな誤解を与えてしまって…あの時は本当にすみませんでした…。
二人の関係を壊したのは私が誤解を与えてしまったせいです、本当にすみませんでした…」
まさか、そういう事だったなんて…。
リヴァイもどうしてあの時そのことを説明してくれなかったの。
ううん、聞く耳を持たなかったのは…持てなかったのは…まだ、私が精神的に彼を信じてあげられなくて自分の要求ばかりを押し付けて未熟だったせいだね。
「リヴァイ…本当に、ごめんなさい…」
その後を追い掛けてきたペトラの同期の子たちや先輩方もみんながリヴァイの事を「兵長」と親しみを込めて慕ったいることを知り、皆はそのまま後は仲良くお二人でどうぞ、と嬉しそうに帰って行ってしまった。
そうして訪れた二人きりの時間。
私の誤解が招いた事で出来た二年間の空白。
だけど、今はその空白が埋まるかもしれないと思うと、どうしよう…と戸惑いさえ抱く。
もうあのままあの人と結婚してしまえば今も忘れられない存在だった彼の事を忘れられるかなと思っていたけど。
…それに、父に急かされ思い出の品も整理してとっくに引っ越しの為に荷物を纏めていたことを思い出した。今回の件でこの結婚の話は帳消しだなと思いながらため息をつくとリヴァイは静かに私の手を無言で掴んだ。
「リヴァイ…ごめんなさい…私、」
「いや、いい。気にするな。そもそも俺がお前を調査兵団の内部事情やどんな人間がいるのかもロクに説明しねぇままだったのが、言わなくてもお前なら理解してくれていると甘えていた事が原因だ…」
「でも、リヴァイは2年間もこうして待っていてくれたのに…私があの時ちゃんと素直に話を聞いていたらこんなことには…私、なんて取り返しのつかないことを…」
「いい。今こうしてお前と一緒に居る…それだけでもう、十分だ。なまえ、」
強く握り締められた手から伝わる温もり…。
それは温かくて、優しくて。
2年越しに感じるその変わらない彼のそんなに温かくはない冬の冷たい温度、触れた唇にただ、私は流れる涙を抑えることが出来なかった。
「なぁ、なまえよ。あの箱だらけのヤツは未だ残してるか…?」
「え?あ、うん。アドベントカレンダーの事??それなら明日捨てようと思って外に出したけど」
「そうか、ならまだ間に合うか」
突然リヴァイの口から零れたアドベントカレンダーという単語に首を傾げながら私たちは懐かしい道を歩く。
思い出が溢れる2人が出会ったお店の通りを抜け、そして今現在実家がある曲がり角の家まで向かうと、見上げた空からはちらちらと、2年前と同じ雪が降り出していた。
「…もう、あの日とは違うん、だよね…?」
「ああ。いつも不安な思いで俺の帰りを待ってくれていたのにな…。
お前と離れてから俺は結局お前を悲しませることしか出来ねぇのなら一人で生きていこうと思ったこともあったが…調査兵団でいつ死ぬのかわからない身分でありながらそれでも、本音はお前との未来を望んでいた…。あの時、2年前…お前に告げようとした言葉がある」
そうして、うっすら雪化粧をされて、古ぼけたアドベントカレンダーの雪をポケットkら取り出したハンカチで拭うと、リヴァイは一番下の段にある今日の日付の24の引き出しを開けた。
「え…」
すると、そこからは綺麗なエメラルドカラーの箱が出てきて。
確かにチョコレートを入れていたと思っていた筈の24の引き出しの中には、自分が入れた覚えのないものが存在していた。
驚く私にリヴァイはそっとその箱の中身を開ける。
出てきたのは白銀の雪にきらめくネックレスだった。
チェーンにぶら下がる繊細なデザインが施されている。サークル状の宝石のペンダントの周囲をダイヤモンドがぐるりと散りばめられて輝きを放ち、私の視界に映る。
そして、そのペンダントの他に見えたのは…あまりにも高価な、女性なら誰しもが憧れる美しい曲線を描いた指輪が自分の左手の薬指に綺麗に輝いていたのを見た。
ペンダントに見惚れている間にまさか指輪をはめてくれたの?
振り返るとリヴァイはこちらが苦しくなるくらいに、見た事もない程の優しい眼差しで私を見ていた。
「お前に、あの日伝えられなかった言葉がある…」
「リヴァイ…」
「お前には今後も不安な思いをさせるかもしれねぇ…だが、俺は必ず巨人を絶滅させる。お前が巨人にいつ襲われるかわからないこの世界を…必ず変えると誓う。そしてお前を残して絶対に先に置いて逝くことがねぇように…今ここで誓ってもいいか?」
「リヴァイっ…私、」
「お前が好きだ…傷つけてすまなかった…許してくれ、なまえ。
もしあの日の俺を許してもらえるのなら…もう一度、お前とやり直すチャンスを俺にくれ。
不安な気持ちにまたさせるかもしれねぇが、一生苦労はかけねぇ、生涯かけてお前を幸せにする…俺と結婚してくれ、なまえ」
たまらず私は今にもこの儚い雪に消えそうな彼に縋りつくように抱き着いていた。
グルリと、淵がダイヤモンドに囲まれた高価な指輪に落ちる涙。
未来なんてこの先どうなるかなんてわからない。
また不安に涙する夜もあるだろう、だけど、この2年間はお互いを見つめ直して、そしてより深く想い期間だと思った。
あの頃の2人にもう一度やり直せるのなら…。
「ずっと、こうしたかった…ずっと、お前と…」
それはあまりにも掠れて消えてしまいそうな声で…彼は本当に誰よりも。そう、本当にただ不器用な人で。リヴァイの優しい声に流れる涙は止めどなく溢れ、静かに降り積もる雪のように二人の思いを募らせていく。
もう言葉にならなかった。
リヴァイの瞳にもうっすらと涙が光っている気がした。
何か言葉を...違う、こういう時はどんな言葉も意味がない事を知る。
言葉はもういらない。未来がこの先どうなるかなんて考えなくていい。
目の前に彼が居る、不器用で拙い言葉で懸命に私に思いを伝えようとしてくれる彼がこうして傍に居る。それだけでいい、なぜなら、私はあなたを愛しているから…。
その次も次の生誕祭も一緒に過ごそう。
古ぼけたアドベントカレンダーのお菓子を沢山引き出しに詰め込んで。
今度はお腹に宿った新しい命と共に。
Fin.
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