Happy Birthday Levi 25/12/2019
06 告げる日
主人公104期設定
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ふ、と目が覚めた。
何か夢を見ていたような、目眩にも似たような感覚を遠ざけるように、瞬きを二・三度する。
外はまだほの暗く、静まりかえっている。
胸に鬱血した跡。
ベッド下に落とされた衣類。
彼の性格をそのまま表したような、整頓された自室。
腰に巻かれている、逞しく、沢山の傷が刻まれた腕を一撫でする。
あたたかい。
腕の持ち主は寝ているようだ。
すー、すーと規則正しい呼吸が肩に掛かる。
「...リヴァイ兵長」
名をひとつ呼んでみるが返事はない。
なまえはリヴァイの顔を見ようと、そっと身体を反転させる。
彼の代名詞とも言える眉間の皺も今はなく、穏やかな寝顔。
「ふふ」
自分だけの特権と思わず頬が緩む。
それと同時に、彼の背負うものは夢の中にまで纏わり付いているのだろうか、自分は足枷になっていないだろうかと、心に影を落とす。
悪い癖だ、となまえは思う。
子どもの頃から変わらないのだ。
勝手に想像して、涙する。
悲劇のヒロインを気取っているわけではない。
ただの性格。
リヴァイが掃除の際言っていた、こびりついた汚れは落ちねぇという言葉を思い出す。そんなものだ。
ぽろっと一粒涙が頬を伝う。
リヴァイが見たら、今度こそ呆れるだろうか。
すん、と鼻がなる。
全て冬のせいにしてやりたいと、壮大な責任転嫁をなまえは考えた。
どんどん下降していく気持ちを切り替えようと、再びリヴァイの寝顔を眺める。
リヴァイと初めて会話したのは、今にも雪が降りだしそうな寒い日だった。
午前の訓練後、厩舎で馬のブラッシングをしていたときのことだ。
「さむいねぇ。今日もお疲れさま」
訓練を終えた馬たちを労うように、目を合わせ、優しく言葉を掛けてやる。
愛馬も嬉しそうになまえにすり寄る
。
なまえも応えるように、愛馬のたてがみを微笑みながら撫でた。
「馬たちはお前によく懐いているな」
背後からふいに、掛けられた言葉に驚き振り返る。
「リヴァイ兵長!」
なまえは右手にブラシを持ったまま、反射的に敬礼する。
「ああ、いい。続けろ」
敬礼を解くよう促し、なまえは「では...」と愛馬のブラッシングを再開する。
これまで兵舎や訓練でもリヴァイを見たことは何度もあったが、挨拶を交わす程度で、会話をしたのは今が初めてである。
リヴァイは厩舎の壁に凭れ、じっ、となまえの背中を見る。
どうしよう。気不味い。
何か話した方がいいのかな?
というか、どうして兵長はここに!?
脳内はぐるぐると渦を巻く。
人類最強と呼ばれる男の視線が刺さって痛い。
自分は何かしでかしたのだろうか。
焦りにも似た気持ちを覚え、ブラッシングに集中出来ない。
暫しの沈黙。
静まりかえり、互いの鼓動までも聞こえてきそうなくらいである。
「あ!」
沈黙を破ったのはなまえだった。
「兵長、雪です!」
弾んだ声が乾いた空気に響く。
リヴァイも続いて空を仰ぐ。
灰色の雲からチラチラと雪が降り始めた。
「寒いわけだな」
「雪はお嫌いですか?」
「どちらかと言えば嫌いだな。寒ぃと便所に行くのも面倒くせぇ」
リヴァイは空を仰いだまま、表情を変えず話す。
「そうなんですか、、
私は好きなんです。故郷が雪深いところで、小さな頃はよく雪だるまを延々と作ってました」
なまえは雪に手を伸ばす。
舞い落ちた雪は、すぐ溶けた。
掌を優しく見つめる彼女の横顔を見て、リヴァイはじんわりと温かいものを感じた。
なまえの表情は雪だけでなく、その先に見える大切なものを思っているようだ。
「ブラッシングは終わったのか?」
「もうすぐです」
「早く戻るぞ。風邪引いちまう」
「あっ、はい」
もしかして...待っててくれてる?
腕組みするリヴァイをちら、と見て、ブラッシングを終えた。
道具を素早く片付ける。
「終わりました」
「ああ」
「あの、私に何かご用でも..」
リヴァイに駆け寄り、顔を覗き込むようになまえが問う。
オリーブグレイの瞳が彼を映した。
一瞬、ドクンと鼓動が跳ね上がる。
「お前、俺の補佐官になる気はないか?」
自然と出た言葉に、リヴァイは自分でも驚いていた。
最も、驚いていたのは彼だけではないのだが。
「私ですか!?」
ザッと後ずさるなまえ。
目を丸めて、まるで信じられないといったところだ。
「訓練を見て思ったが、お前は周りのヤツにも気を配れる。104期の中でも観察力は上位だ。立体起動の使い方も申し分ない。少し体力不足な様子が見られるが」
「でも...」
なまえは視線を落とし、長い睫毛が伏せられる。
「ダメな理由でもあるのか」
「...出来る自信がありません」
「なまえよ、俺の言葉が信じられねぇか?」
リヴァイはなまえを真っ直ぐ見つめ、続ける。
「お前なら出来る。俺が保証する」
「...兵長。」
胸の前で組んだ手にグッと力を込める。
泣き虫な、怖気付いた自分を変えたい。
自分を信じてくれる人と未来を切り開きたい。
「はい!」
彼女の目に迷いがなくなった。
「決まりだな」
なまえの髪をくしゃっと撫でると、その手はすぐに離れていった。
寂しいと感じたのは気のせいか。
「旨い紅茶を淹れられると尚良い」
「勉強します!」
なまえは先に歩き始めたリヴァイの後を追う。
「さっそく紅茶で暖まりましょう」
「お手並み拝見といくか」
吸い込む空気は冷たい。
しかし、胸には炎が灯っている。
迷わない、進む。それだけだ。
二人の足跡を雪が埋めていく。
かすかに、リヴァイが笑った、
気がした。
瞼の奥に眠っている、灰青色の瞳を愛しく思う。
早く起きて欲しいような、欲しくないような。
隣にいるのに、むず痒い。
その思いが届いたのか、リヴァイが身動ぎし、細い眉がひそめられた。
ゆっくりと目が開く。
「おはようございます」
「...おはよう」
掠れた声でリヴァイが応える。
ぐい、と両腕でなまえを抱き寄せアンバー色の髪に顔を埋める。
さらさらと流れ、ほのかにシャンプーの匂いが鼻を掠める。
リヴァイはふぅとため息にも似た息を吐いた。
「へーちょ、くるし」
リヴァイは制止の言葉を聞かず、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。
そして体温を確かめるように、彼女のうなじから背中を緩やかに撫でた。
「窒息しちゃいます」
「起きていたなら起こせ」
「せっかくの休みですし、ゆっくり寝ててもらいたくて」
リヴァイはなまえの頬をむにむにと優しくつねる。
「また余計なこと考えてたんだろう」
目尻に溜まった涙を、そっと親指でなぞる。
まるで赤子を宥めるように。
彼に嘘は吐けないな、と困ったように眉を下げた。
「ごめんなさい」
「謝るな」
「...はい」
リヴァイは理解している。
なまえがことあるごとに、涙を流すことを。
始めは驚いたが、月日を過ごすうちに気付いた。
喜怒哀楽関係ないのだ。
彼女にとって次に進む儀式のようなものだ。
104期の誰かの誕生日
ハンジの実験に巻き込まれ、得体の知れないものを飲まされたとき
エルヴィンに褒められたと騒いで、知恵熱まで出したとき
壁外調査の前夜
そして
仲間が死んだとき
瞼に柔らかなキスが落とされる。
鼻、頬、そして唇。
「兵長、くすぐったい」
「逃げるな」
キスから逃れるように身をよじる。
シーツの隙間から入る冷たい空気さえも、触れあう素肌の温かさに反比例して心地好い。
「名前で呼べと言ってるだろう」
ずるい、となまえは思う。
この人の瞳は私を捉えて離さない。
じぃ、っとなまえの目を見る。
少し意地悪で、優しく、愛しい。
感情が泉のように溢れてくる。
なまえの隣にいなかったら、知り得ない感情だった。
「リヴァイ、」
未だに慣れない。
なまえは小さく照れながら呼ぶ。
リヴァイは満足そうに笑みを浮かべた。
「上出来だ」
「はい」
なまえもつられるように笑顔になる。
ピンクに染まった頬が尚更愛しくさせた。
右手で前髪を優しく払い、ちゅっと額にキスをすると、リヴァイはガウンを羽織り、ベッドから立ち上がる。
なまえも真っ白なシーツを胸に手繰り寄せ起き上がる。
曇った窓を指で拭い外を見ると、兵団の敷地は銀世界となっていた。
まだまだ積もりそうだ、と寒さで肩が震えた。
「いつまでも寝ていたいところだが...お前に渡すものがあってな」
「?」
なまえは首を傾げる。
執務デスクの右上段を開けると、小さな箱を取り出し、ベッドに戻り腰掛ける。
ギッと小さな音を立てて、なまえと向き合う。
「貰ってほしい」
「えっ」
箱の中には、光るゴールドの指輪があった。
リヴァイと指輪を交互に見遣る。
「柄にもねぇが、形にしたいと思ってな」
「かたち?」
左手をとり、薬指にそっと指輪を嵌める。
なまえの指にぴたりと馴染むそれは、ずっと前から鎮座しているように見えた。
「わあ...!きれい」
手をかざし、感嘆の声を上げる。
キラキラと魔法が掛かったように、なまえの笑顔が眩しい。
リヴァイは一呼吸置いて口を開いた。
「なまえ。
俺もお前もいつ死ぬか分からねぇ。それでも、このクソみてぇな世界で、生きていく。絶対にお前を守り抜く」
手にそっとキスを。
守りたい、くだらないことで笑う毎日を。
束の間の、聖なる日を享受しよう。
「私も...あなたを守ります。嫌がっても、呆れるくらい側にいますから」
ニッといたずらっ子のように笑う。
「望むところだ」
こんなにも動かされる。
彼女が笑えば全て、些細な問題にすぎないのだ。
オリーブグレイに告げた、あの日がフラッシュバックする。
指輪からゆっくりと顔を上げ、なまえは頬笑む。
「今日は誕生日プレゼントを買って」
「ほぅ」
「ケーキとワインを買って」
「ベタでいい」
「街のツリーを見て」
「手が存分に繋げるな」
「パーティーして」
「私を召し上がれ?」
「...馬鹿野郎」
目元が赤く染まると同時に、彼は緩む口許を覆ったのだった。
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