いつまでかな、と憂い顔で赤い南天の実を

ぼんやりとした視界に入れながら昼のリクオ

は夢と現の狭間に落ちる。

外は傷が痛むほどの寒さ。百物語組との闘

いを終えて、また鴆くんに頼る日々が続いて

いる。

夜のボクに気付かれないようにって我なが

ら無茶苦茶なこと言ってるよな。

いつもこんな無茶を言っても変わらずに傍

に居てくれる鴆くんの好意に今は甘えるしか

ない。

夢の中ではひらひらと散る桜の花弁を見な

がら、自分の膝の上ですやすやと眠る夜のボ

クの銀色の長い髪をさらさらと梳いている。

目線を膝の彼に落とすと手を身体にみえる

傷にかざした。ぽうと光を放つ掌。他人を癒

すことができる力がボクにはある。でも、お

ばあちゃんの血を4分の1しか持っていない

リクオ″の力では自分自身の中の他者である

妖怪のリクオを癒すくらいしか力を発揮でき

ない。しかも一度腐り爛れてしまった体を戻

すという荒業をやってのけたからか、その後

の傷も治すには力が足りず、酷い傷がまだま

だ各所に残っている。いまだに腐った身体の

後遺症なのか再生力が追い付かず妖怪の姿で

も体の中の傷は癒えていない。

人間の姿になり妖怪とは違う耐性の身体に

なったら酷い痛みを伴う。淡島は自分が無数

の刀で貫かれても畏れの力で敵を倒して元気

に歩き回っていたと自慢げに話していて、妖

怪と人間はずいぶんと感覚が違うものだとし

みじみと思ってしまう。

自分の傷口をさっと消してしまえれば、痛

みも消してしまえれば、誰にも心配をかけな

くてすむのに。

「何もできないってもどかしくてたまらない

のは鴆くんだけじゃないんだよ……」

膝に乗せた夜のリクオの整った眉を撫でる

。色の薄い肌も銀髪も人間でないような精巧

なつくりの顔立ちは前はあんなに恐ろしかっ

たのに、今は綺麗だなと純粋だなと色事に興

味のない昼のリクオでもついつい触りたくな

る。

この唇がボクに触って、と想像するだけで

顔を真っ赤にすることをされてもいるし、し

てもいるから触ったらまた思い出すに決まっ

ているのにやっぱり触りたくなる。

指で輪郭をなぞり少し冷たくて薄い唇に触

れた瞬間に、柘榴色の眼が薄く開いた。

びっくりして、思わず手を引く。触ってご

めんと言えばいいのか大丈夫?と尋ねればい

いのかわからないまま膝枕をして固まってい

る。

だが空を見る夜のリクオの眼に表情が無く

ただ空ろにそこにあるのがおそろしくなって

、昼のリクオは困惑しながら体を傾げて大丈

夫か覗きこもうとした。

「まだなおらねえのか……」

動いた夜のリクオの目線は昼のリクオの喉

あたりだろうか。呆けたような口調にハッと

した。

不思議なもので自分を眠らせる為のものが

時々夜のリクオにも作用することがあって、

とろんと蕩けるような顔がいつもの夜のリク

オではないからきっと効いているんだろう。

人間の姿でも身体能力は人間のそれより高い

のは人と妖怪が混じっている証拠だ。

薬の影響でか、その薄く開いた紫色の唇を

みて萩の仄かな花の香りを思い出した。

膝枕をしたまま「いいから寝なよ」と言っ

ても聞こえているような反応は返ってこなく

て当惑するばかり。

「きずはなめりゃなおるっていうだろ」

「舐めないって」

髪が揺れて夜のリクオが起き上がろうとす

るので、昼のリクオは制止しようと彼の肩に

手を置く。

「あっ、だめだよ、無理しちゃ」

「そうか、ここはじぶんでなめられねーもん

な」

へ……?

すり抜ける手。包帯の上の湿った感触。ズ

キン、と痛みが走る傷。

起き上がって包帯で巻いてあるボクの喉に夜

がぱくんと喰いついたのだ。

「んんっ…!なにっ、を!!」

びっくりして肩が跳ねる。

「オレはいいから、おめえのきずをなおせ」

傷をなおせってっ……!

すぐに口を喉から離したと思った途端のそ

の一言に、胸が大きく波打った。だからさら

に油断した。

いつの間にか腰に腕が回されていて逃げる

に逃げられないこの状況に、起きたの?正気

なの?とぱくぱく声にならない訴えを起こす

けれど、構うことなくざらりと布上から舐め

られる感触が這う。

正気なら鳩尾に一撃を受ける覚悟もあるだ

ろうけど、彼のうつろな眼は正気であるよう

にはみえないから、朦朧とした意識の中で無

意識下にあるものが出てきたと思った方が正

しいのかも。

布越しの唇が熱い。

ぷつんと包帯留めが外されて白い包帯が緩

むと紅い傷が露わになる。

地肌に直接夜のリクオの舌が這い、ぞくり

と身体が戦慄いた。

「ぁ、あ、なめても、なおらないっ、よぉ…

…」

剥がそうとしても、訴えは却下されたようだ

。ちゅくちゅくとまるで吸血鬼のように舐め

はじめた夜のリクオが包帯と肌の間に指を入

れる。肩をすり抜けおちてゆく包帯。

このまま……映画みたいにボクを喰らって

しまうのかな。

それでもいいやなんて思いながら、鼻をく

すぐる夜の髪は萩の香りがするような気がし

て。

指を差し入れると、喉を舐めていた夜の顔が

ボクの顔に近づいて、ぱくんと鼻を咥えられ

た。



→あとがき






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