舌打ちと共に後頭部に手を回されてぐいと引き寄せられた。

リクオの懐に顔を押しつけられて何も見えない。




「頼むから」

「……りく」

「頼むからそんな事言ってくれるな、鴆」

「………悪かった」




リクオの手がしきりにオレの頭を撫でていて、ずいぶん酷な事を言ってしまったと思った。

前のめりになった体をきちんと向き合わせて齢12の若頭を抱きしめる。

そしてもう一度悪かったと囁いた。

でも反応は無くて。



――リクオ泣いてんのか…?



そんな考えが浮かんで心臓がばくばくとせわしなくなってきた。

いや、リクオが泣くなんて有り得ないのは分かってるけどこんな静かさも有り得ない




「リクオ、あの…痛っ!?」





いきなり髪の毛を掴まれて上を向かされた。

桜の花を背景に畏れを帯びたリクオに震えた瞬間、貪るような口付けがふってきた。

髪を掴まれている痛みと舌を吸われる心地よさに意識が朦朧とする。

そしてリクオはわざと音をたててオレの唇を吸って離すと、風景に似つかわしくない大音声で言った。




「ぜっっってーお前は死なせねぇからな鴆!たとえお前が死にてぇって地獄に足突っ込んだとしてもオレが引きずり出してやらあ!運命だぁ?んなのオレが覆してやるっつってんだよ!弱気になるヒマがあったら笑ってろ!分かったか馬鹿鳥!」

「…………。」




たぶん今すごく情けない顔をしているかもしれない。

何しろ夜のリクオが叫ぶのなんて初めて見たのだから。

とりあえず至近距離で怒鳴られて耳がキンキン言っている以外全く変わりない景色の中、リクオが気だるそうに腰をおろしてハッと我にかえった。




「リクオ」

「んだよ。弱音だったら受け付けねぇぞ、言ったら蹴落とす」

「……ありがとよ」

「――――。」





リクオは両手を後ろにつくと楽な姿勢で桜を見上げた。

唇に乗った花びらが、ふうっと吹き上げられて落ちていった。



「また来年も来るぞ」

「……」

「来年も、再来年も、その次も毎年此処に連れてきてやる」

「今度は酒を忘れないようにしねぇとな」

「吟醸酒頼む」

「舌肥えてんなぁ」

「一級の桜には一級の酒、だろ」

「違ぇねえ」




笑い声をあげるオレの手にいつの間にかリクオの手が乗っていた。

触れ合う指先から伝う熱が思う以上に心地良くて、手を繋ぎたいと思った。

目を閉じればリクオに手を引かれて笑顔で坂を登る自分がはっきりと浮かんでくる。


笑ってろ…か。




「鴆、寒くねぇか」

「大丈夫だよ」



1つの羽織りを2人で肩にかけて笑い合う。


そうだよな。
終わりを考えるくらいならお前と笑ってるほうが何百倍もマシだ。




「桜も好きだけどな」

「ん?」

「お前と笑うのはもっと好きだぜ、リクオ」

「奇遇だな」




一際強い夜風が花びらを吹雪かせた。




「オレもだよ鴆」




この命よどうか。

どうか容易く散ってくれるな。

たった今気づいたばかりなのだから。

明確な生きる意味を。

何度でも見事に咲き誇る桜みたいに、オレも何度だってコイツと笑い合いたいから。

愛し合っていたいから。

どうか――







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