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今年も綺麗な桜が咲いた。
開いたばかりの花のそれぞれが発光しているように見えて、オレはその眩しさに思わず目を細めた。
空を仰げば花びらが舞い、踏みしめる地面にも花弁がたくさん重なっている。
まるで夢の世界にでもいるみたいだ…なんてらしくない考えが浮かんで笑ってしまった。
「なに笑ってんだよ」
ぼんやりとしていた頭に澄んだ声音が響いた。
隣を歩いていたリクオが不思議そうにオレの顔を覗き込んでいたけど、なんでもないと首を振った。
「変なやつだな」
さくさくと桜の道を踏んでいく。
何か特別な会話をするわけじゃないけれど、こうして2人であてもなく歩くのが楽しくてならなかった。
先日まで床に伏せっていた間で桜はあっという間に開花をすませており、そこにタイミングよくリクオが来てくれた。
――桜見に行こうぜ
穴場を知っているからと手を引くリクオに連れられるまま歩いてきたが、思った以上にすごかった。
「夜桜たぁリクオも粋だねぇ」
「この場所は最近見つけたんだよ。首無に小さい灯りつけてもらってさ」
にこにこと終始笑顔なリクオの頭を撫でてありがとうと言うと、リクオは切なげに頷いた。
そこからしばらく夜桜並木を歩いた。
花びらがひらひら舞う中をしっかり手を握られて進むにつれて木がまばらに、灯りは少なくなっている。
暗くて分かりにくいけど、どうやら坂を登っているらしい。
リクオが止まった。
そして視界が開けたかと思った瞬間目がくらんだ。
「ここがとっておきの場所」
「…すげぇ」
ざぁっ、と風が通り抜ける。
再び焦点が合った目に映ったのは丘にそびえ立つ巨大な桜だった。
奴良組の大桜に負けないくらいどっしりと太い幹から枝を四方に伸ばし、その先まで余すことなく満開の花をびっしりと咲かせている。
桜までは距離があるというのにここからでも十分その迫力が分かる。
すげぇ。
本当にその一言しか出なかった。
「ここは誰にも教えてねぇんだ。秘密の場所」
「良かったのか?オレ連れてきて」
「当たり前だろ?というかお前を連れてきたかったんだ」
「―――。」
きゅっと喉の奥が締まった気がして、知らず知らずオレは胸を押さえていた。
発作じゃなくてもっと別のもので。ここで気を抜けば喜びに嗚咽が洩れてしまいそうだった。
「行くぜ」
またオレの手を引くリクオにやっと頷いて桜まで歩いた。
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