「今代の鴆にならリクオは任せられるな、いい兄貴分だ」

「…ありがとうございます」

「でも今ならオレの夜行に入れてやってもいいぜ?お前の忠義をリクオにやるには惜しい」

「あ、あの…オレは」

「だめ」

「!?……リクオ、起きてたのか」



着物を引かれる感覚に下を見ればリクオが目をこすりながら鯉伴を見ていた。
それからゆっくりとした口調で言った。



「鴆くんはボクのだもん…お父さんとっちゃやだ」

「……。大丈夫だ取りゃしねぇよ。冗談だから」



ぐずっていたリクオは鯉伴の大きな手に撫でられ、何度も頷いていた。
そしてふと鴆を見つけると満面の笑みでその手を握った。



「鴆くんはボクの夜行に入ってくれるよね!」

「あ…ああ!もちろんだぜ」

「良かった。大丈夫だからね鴆くんはボクがちゃんと守ってあげるからね」

「あーあー目の前でふられちまったな」

「ぁ…すみません二代目」

「言っとくが謝られるとリアルに悲しくなるんだぞ。覚えとけよ鴆」



「お父さんには鴆くんのお父さんがいるでしょ?だから鴆くんはボクにちょうだい」

「ちょうだいって…リクオてめぇ人をモノみてぇに!」

「ははっ、いいぜリクオ。今代の鴆はお前にやるから大事にしな」

「うん!」

「二代目まで……;」



かくんとうなだれた鴆。
嬉しそうに繋いだ手を振っていたリクオが鴆にぎゅうっと抱きついた。
これにはさすがの鯉伴もあっと声を上げたが、自分の足の上で繰り広げられる戯れにたまらず2人まとめて抱きしめた。



「きゃははっおとーさんくるしー」

「もっと苦しくしてやるー」

「や……本気で苦しいです二代目……っ!」




あの時、桜も既に葉桜になっていたが地に咲き誇る花はここぞとばかりに甘い香を放っていた。
二代目の温もりを全身で感じながら甘い香を嗅ぎ、元服の不安はすっかり吹き飛んでいた。


毎年――
春が来て、柔らかく温かな日だまりの中甘い花の香を嗅ぐ度にあの日の温もりを思い出す。



二代目…今代の鴆は今も奴良組で忠義を尽くしております
リクオはちゃんとオレを守ってくれています






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