きあら様より | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▽ ※神の謝辞を、あなたに賛辞を
「最初は『飼い殺される人間ってどんな表情をするのでしょう』って思ったんですよ。『飼い殺す』というのは、「役に立たなくなった家畜を死ぬまで飼っておくこと」です。または「本人の能力を十分生かせないような地位や職場に置いたまま雇っておくこと」だそうです。
僕的には前者を鎖で繋いでヒトで試して、なんて喚くかどんな表情をするのか、つぶさに観察したかったわけです。
出来れば、子どもが良かったですね。
一度飼い殺すには至らずとも、多少歪ませたことがありますから、その時出来なかったことをやろうと思いました。
ですが、ただの神父がそんなことを思いついても即実行なんて出来ません。
その時はただ『そんな表情、いつか見たいな』という程度でした。
しかし、外面だけは良くするものですね。
『あなた』が現れた。
僕の『買い殺される人間の表情を見たい』という薄ぼんやりとした願いを叶えてくれるとっても都合の良い相手です。
あなたは、教会の前に倒れていて、目覚めた後に色々聞いても「NO」ばかり。
自分の名前も、生い立ちも、家族や知人の記憶も覚えていませんでした。ここがどこかわかるかと聞いても首を振る。あなたは簡単に言えば記憶喪失でした。
僕は、あなたが神のプレゼントだと思いましたよ。
僕は神父ですが、神なんて信じていません。生きるのに都合が良いので神父を名乗っていただけなのです。
こんな猟奇的なことを考える神父なんて、いませんよ?
教会の神父には、欲深い人間か敬虔なクリスチャンしかいません。
おっと、これは言い過ぎですかね。
話を戻します。
とにかく、あなたは僕の思いつきを『いつか見たい』から『見せてくれる』に変えてくれました。
そこで、パッと思いついたんです。
『飼い殺すよりも、数年信頼を与えて殺したらどうだろう?』と。
勘違いさせて女性を殺すのは常套句、息子はネグレクトで壊していました。
僕には友人がいなかったので、友情を裏切って殺したことはなかったなあ、と。友情とはいかずとも、信頼させた相手を裏切って絶望させたことはないなあ、と。
ですから、記憶の無いあなたに優しくして信頼を得、裏切って絶望する表情を見ようと思いました。
あなたとの生活は中々楽しかったですよ?
記憶が無い故、僕を信用し教会で熱心に働き始め、初めて笑顔を見せたときに、それは嬉しかったです。
僕は名前を呼ばれ笑顔を向けられるたび信頼を寄せられていると、これをいつか裏切ってしまうのかとゾクゾクしました。
そうして三年。
三年が経ちました。あなたは僕を慕って、僕よりも敬虔なクリスチャンになっていました。
面倒なことを避けるために、洗礼は受けさせませんでしたが、シスターの真似事をさせましたね。
僕たちが住んでいたのは村はずれの教会でした。
あなたは遊びにくる近所の子どもたちにも好かれ、彼らにも親切で、仲良くしてもらいました。
僕は三年経ってようやく時が来たと思いました。
もう十分、下ごしらえは済んだと思ったのです。
料理も、時間をかければかけるほど美味しくなるとは言い難いでしょう?
肉もある程度熟成したら、適切な調理をしなければ美味しくありません。
ほら、料理も教えてあげたでしょう? それなら分かるはずです。
そうして本日。
近くの村が祭りの時に、決行しようと思いました。
子どもたちと、村の誕生を祝うあなたは楽しげで、僕も良い気分になりましたよ。
そんなあなたを、村はずれの教会に用事があると呼び出し、後ろから襲って気絶させて、今に至ります。
長々と語りましたが、これで以上です。
目隠しも、猿ぐつわも、手を縛った縄も外しますね。
ただ、ここからは逃げられません。
叫んでも皆、お祭りに夢中で誰も来ませんよ。
それではそろそろ……ああ、一言、言い忘れていましたね。
『三年間、楽しかったですよ』」





prev / next

[ back to top ]