流れる砂は私の中で…

 
「ほら、もう泣かないで」


彼が私の頬を撫でる。
その手を優しく握り返す。

彼は笑ってくれた。
いつものように、優しくそして暖かく。
私も笑わなくちゃ、彼のように優しく、安心するように。


「うん、君は笑ったほうが素敵だよ」

「ありがとう」


どういたしまして、と笑う貴方。
さらさらと流れる砂は倒れ込む貴方から。
抱き起こす私の手の間をこぼれ落ちていく砂は貴方から。

吹き込む風に流れていく砂。
貴方の身体が少しずつ流れていく。
……崩れていく。


「どうして、…どうして私じゃないんだろう」


うっ、と言葉を詰まらせながらも私は泣く。
崩れゆく貴方、だけど貴方は笑った。


「そんなこと言わないで、君がなったら僕は悲しい。崩れるのが僕で本当に良かった」


貴方が貴方の形でいられるのはあと僅か。
足はもう亡く、砂へと変わってしまった。


「君といた時間は幸せだったよ」

「私もよ」


掴んでいた手が私の手の平から流れていく。
彼はまた笑った。
風に吹かれ崩れていく中、呟いた最後の言葉。


『愛してる』


一人、残された私の中の砂が風に吹かれ飛んでゆく。
さらさらと流れるものは、砂になった貴方。
嬉しさの次に押し寄せてくるのは哀しみだけ。

さらさらと指の間を縫って零れる砂を見送った。



流れる砂は私の中で…
(零れゆく、愛しい貴方を抱きしめよう)







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