僕が知る初めての白

 
見渡す限り何もない中で白を見つけた。

刀を相手の首の高さまで掲げる。
だが、横目で刀を見ただけで表情を変えず目を伏せるだけ。


「逃げないのか?」


そいつはふんっ、と鼻を鳴らし自嘲気味な笑顔を浮かべた。


「こんな翼で何処に逃げると?」


そう言い広げた翼は傷つきボロボロになり、それに折れているのか曲がっていたりと痛々しいほど無惨な姿だった。


「殺るなら早くやれ」


自分から刀を掴むと首に押し付けてきたから、驚き固まってしまった。


「なんだ、神族はお前たちの敵だろう?なら早くしろ」

「なんでお前はそんなに…」

「こんなになったら後は死ぬだけだ。ならお前にこの命をやる。こんな翼でも持ち帰れば名誉ぐらいにはなるだろう」


さあ、早くしろ。
と更に力を込めて刀を押し付ける。
首から赤い線が流れていく。
確かに殺せば名誉になる。
いや、それ以上のものになるのは間違いない、間違いないのだけど…。


「どうした?早くしろ」


怪訝そうな顔をしている。
何故、早くしないのか。
その刀で一振りだろうに。


「あんたは戦わないのか?」

「戦う気なんてない。こんな戦いに嫌気がさしている。神も人間も生きている事には変わりはないのに」


……なんなんだ、こいつ。


「でも、この戦争はあんたら神族から仕掛けてきた」

「神も馬鹿な奴だ。こんなことして何になるって。対した力もない威張り散らすだけのジジイのくせに。そのうち奴は墜ちるさ、欲張った罰だな」


ざまあみろ、と鼻で笑う。
こいつは…。

奴の手から刀を離し、そして横へと刀を勢いよく振り切った。


「………なっ!」


驚きを隠せない表情で見つめる。
それもそのはず、刀が切ったのは奴の長い髪。


「何故…」

「俺も戦いに嫌気がさした。こんなの、やめだやめ!ほら、肩貸せ。この先の村に種族関係なく見てくれる医者がいるらしい。行くぞ」


奴の腕を肩に担ぎ、支えながら歩きだす。
最初は呆然としていた奴は、ふっと微笑みを浮かべると「ありがとう」と呟いた。





僕が知る初めての白
(…奴のほうが誰よりも"人"に見えたんだ)
 







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