曇りのち晴れ

 

空を見上げれば曇り空。
ほうっとはく息は白く、すぐに透明になり見えなくなった。


落ち葉もほとんど残っていない公園の中、動いていない噴水に腰かけている。

ふと右側に何かがふと動いた気がした。
髪の長い女。


『ねえ、今日は雪は降らないのかな?』


俺に振り向きながらそう言う女。


「香弥…乃?」


右手を伸ばすがすうっと消えていった。
伸ばした腕が一瞬さ迷うが、すぐにしたに落ちる。
そういえばよく雪は降らないか聞いてきたっけ。


立ち上がり、右手が何かを掴むように握る。
微かに温かい温もりを感じたような気がした。
自然に笑みがもれる。
そして自分でそれに驚いてしまった。


自分で自分に驚いた事にまた笑ってしまう。


「今日は降りそうだよ。香弥乃…」

「呼んだ?」


今度は別の意味で驚いた。
幻聴かと思いながらも横を向けば、髪の長い女がいた。


「笑えるようになったじゃん」


そう言いながら香弥乃はとびっきりの笑顔を見せてくれた。


「なんで?」

「なんでって、あんたがちゃんと笑えてるか確かめに来たんだよ」


よかったね、と香弥乃が微笑むから俺もつられて笑う。


「もうどこにも行かないよ。私はここで生きるから」


そう言い、俺の右手を取った。
さっき感じた温もりと違い、今は現実のものでちゃんと手の中にある。


「お帰り…」




一筋の涙に、君の笑顔。







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