いける、今日こそは絶対!


まるで探偵ごっこをしているみたいだ。
足音をたてないように、慎重に歩く。
夜のアジトは不気味なくらい静かだ。ペルシアンの像の赤い目がその不気味さに拍車をかけている。
この侵入者用ペルシアン像は団員には反応しない。ふふふ、それくらい知らなければこの計画は遂行出来ないさ。

今日がチャンス。
なんと我らが鬼畜上司が今日は出張中なのである。ふふふっ…このアジトから逃げ出すのには絶好のチャンス。
確かに、ここは給料はいい。だけど、この環境は嫌だ。毎日上司に苛められる日々…うんざりだ。
頭の中に浮かぶのは今までの日々。あぁ、私は頑張ったなぁ。

そんな日々とは今日でおさらばだ。私は自由になるっ!

この角を曲がれば出口はすぐそこだ。
さようなら、みんな!私は今旅立つ…

どがっ。

「ぎゃあ」

角を曲がった瞬間、何かとぶつかった。
その勢いで床に思いっきり尻をついた。い、痛い…
誰よ、ぶつかった奴は――

「おや、レイムではありませんか」

頭上から聞こえてきた声に私は固まった。
い、いいいい今、とても聞いたことのある声が…!

ガクガク、とロボットのような動作で顔を上げる。

「ラ、ランスさん…!」

どうしているんだ。
当分は帰ってこないはずじゃあ…!?

「任務が早く終わりましてね。すぐに帰ってきたのですよ」

まるで私の心の中を読んだかのような解答に愕然とした。

天井に設置されているライトの光を浴びているランスさんの表情は眩しい。怖すぎるくらいに眩しい。

「さて、レイム。こんな夜遅くに外出ですか?」

「い、いえーす!」

そう答えるとランスさんの目がよりいっそう怖くなった。

「おやおや。どこにですか?」

そう聞いてくるのはありですか。わかっているくせに…!

「ちょっとお散歩に…」

「そうでしたか。ならご一緒しましょうか。夜の道をレディが1人で歩くのは危険ですからね」

「い、いえいえ!1人でもオーケーですよ、私!」

あはは、と乾いた笑いをたてながらすばっ、と立ち上がる。

「それじゃ、いってきま「お待ちなさい」

ランスさんの横をダッシュで通過しようとすると、がしっ、と肩を掴まれた。そのままランスさんの方に引き寄せられる。

「逃がしませんよ、レイム」

耳元でそう言われ、私は冷や汗が止まらなかった。
こ、怖すぎる…!

「ここから脱走だなんて貴方には100年早いですね」

バカにする言い方で言うと私の背負っていたリュックを掴み、歩き出す。

「ぎゃあああっ!」

入口がっ、どんどん遠くなっていくぅぅぅ!!

「はーなーしーてぇー!」

「さて。脱走した罰を与えませんとね」

いらねぇぇぇ!!
そんな私の気持ちを知りつつもランスさんは楽しそうに語る。

「そういえば書類が溜まっていましたね」

「え、寝かしてくれないフラグですか!?」

「当たり前ですよ。たっぷり働かせてあげます。あぁ、残業手当なんて出ませんからね」

「なっ…ひ、酷いっ。出してくださいよぉ!」

「貴方が自分でやりたいと言ったではないですか」

「言ってないよ、私!?」

つまりはタダ働きということですかい。
うわぁぁぁん、それだけは嫌だぁぁぁ!

「離せーっ!私は寝るんです!睡眠不足はお肌に悪いんですー!」

「もともと悪いのですから気にすることではないですよ」

「またそういうことを言うんですね…!」

「私は事実を述べただけですよ。さぁ、着きました」

「嫌だ、嫌だぁぁ!部屋に入りたくない…」

――その後、朝になるまで書類整理をやらされた。
押し付けた本人は作業中爆睡していた。
私はそれを見て悟った。もうこの運命を受け入れるしかないと。

私に安息の時が訪れるのは当分先になりそうだ…







(おや、まだ終わっていないのですか。あぁ、バカだから仕方がありませんか)(…転職したい)









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