やさしくされると、なぜか


「バカですよね、本当に」

目の前で私を見下すように見ているランスさん。
私は何も言わず、じっ、と彼を睨み付けると布団で顔を隠した。

「バカは風邪を引かないはずなのですがね。やはり迷信でしたか」

病人に対しても容赦ない言葉だ。鬼がいる。おかーさん!ここに鬼がいるよ!

「病人にその追い討ちですかい」

「風邪を引く方が悪いのでしょう。まったく…何もしていないというのに、なぜ風邪を引くのでしょうか」

心の底から分からない、という風に呟いたランスさん。アンタは何をしに来たんだ。わざわざベッドに潜っている私を苛めにきたのか。
ちくしょうっ、なんだか悲しくなってきたぞ。ここまで鬼だとは思わなかった。こうなったら寝てやる!

そう決意し、瞼を閉じるとあっという間に睡魔に襲われたのであった。



――冷たい。
何かが頬に当たっている感触がする。
あー…気持ちいい。ちょうど良い冷たさだ。
……眠気が飛んでいってしまった。
しかし、誰がいるんだろうか。アテナさまか…アポロさま?ラムダさまは確か今日は出張だとか言っていたからいない。
とりあえずランスさんはないだろう。あの鬼畜上司がいるわけがない。今頃はお仕事中だ。まぁ、私としてはいい。どうせ会ったら嫌味しか返ってこないに決まっている。くそーくそー!少しは心配してくれたっていいじゃないかよ。…あれ、なんで私怒っているんだ。熱のせいだな、ちくしょうー!

「…何を考えているんですか、貴方は」

ぎゃあああっ!い、痛い!いだいっ!
むにーっ、と両頬を引っ張られ、思わず目をカッと開けた。
そこにいたのは――

「ふえっ!?りゃんしゅしゃん!?」

一番いないと思っていたランスさんが不機嫌な表情でいた。

な、なんだと…!?

「はぁ…どうせ私の悪口でも心の中で言っていたのでしょう。顔に出やすいですね、貴方は」

そう言うとますます引っ張る力を加えた。
い、いだっ、し、死ぬぅぅぅ!!
ご飯が食べれなくなるぅぅぅ!!

「いひゃいよ!」

「おやおや。可愛い顔ですよ、レイム」

こ、このやろう!この鬼畜ドS上司め…!
思いっきり睨み付けるとランスさんはやっと手を離した。

「…最悪!」

思わず上半身を起こして抗議をする。するとふらっ、と視界が揺らいだ。
勢いよく頭を起こしたのと熱が高いからだろう。…って、冷静に分析をしている場合じゃないや。

「大丈夫ですか」

ほら、幻聴が聞こえてきた。
それも物凄い幻聴だ。ランスさんが私を気遣う言葉を言ったのだ。これは本格的に熱が上がっているな。まずい。

「…幻聴でも構いませんよ。とにかく寝なさい」

「……はい」

ランスさんが私の体を横にした。
次は幻覚か。ますますヤバイな、私。
布団を私に掛けるとランスさんはおでこに手を当ててきた。

「先程よりも熱が上がっていますね。まったく、普段使わない頭を使うからですよ」

冷たい感触に私は知らず知らずの内に目を閉じた。
あぁ、この感じ…さっきの感触と同じだ。

「ゆっくりと休みなさい」

眠る直前におやすみ、という声が聞こえたのは夢か現実か。







(今日だけは優しくしてあげますよ)(ですが、明日からは思いっきり働いてもらいますからね、レイム)









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