happy day!


これで喜んでもらえるだろうか。




気がつけば世間ではクリスマス一色になっていた。
コガネシティも例外ではなく、あちらこちらに装飾がしてある。

「あー…いいなぁ」

ポケギアを取り出し、日付を確認して虚しくなった。

なんだか切ないものである。

久しぶりに休暇を頂いたので外出をしたのだが、これはとっとと部屋に帰って寝た方がいいのかもしれない。
…うぅっ、なんか悲しいなぁ。



アジトに足を踏み入れ、部屋を目指す。
寝るのもいいけど、なんかしたいな…そうだ。読み掛けの本があったな。読んじゃわないとなぁ。

部屋の前に立ち、鍵を取り出して鍵穴に挿す。
ちなみにしたっぱは2人1部屋なのだが、私と共に過ごしていた同居人はいつの間にか人事異動が出たらしく、気がついたらいなくなっていた。どこに回されたのだろうか。

カチッ、と音がしたのを聞きドアノブを回す。

……が、開かなかった。

「あれ…?」

確かに鍵をしていったはずなのだが。
し忘れた…?

疑問に思いながらも再び鍵を挿して回す。
今度は開いた。
ドアを回し、部屋へと入る。部屋の大きさはそんなにない。設置されている家具は生活に必要な用品しかない。

そんな部屋に入り、私は唖然とした。

「……何してるんですか」

「やっと帰ってきましたか」

2つしかない向かい合いの椅子の1つにランスさんが座っていた。
よく見れば私のベットの上には色とりどりのプレゼント箱が開けられずに散乱している。

「不法侵入で訴えますよ」

「我々は訴えられることを普段していますよ。貴方も一緒に捕まりますか?」

……ごもっともでございます。
なんだか凄く疲れた気分になった私は空いている椅子になだれ込むようにして座った。

テーブルの上にはこれまた美味しそうなクリスマスケーキ。
そしてコーヒー(高級なヤツなのに…っ!高かったんだよ!)の入ったカップ。
……まだ私、飲んでいなかったんだけど。

「で、どうやって部屋の中に入ったんですか」

「私は貴方の上司ですよ。部下の部屋の鍵くらい、スペアを持っています」

「…そこまでして私の貴重な休暇を邪魔したいんですか、貴方は」

「私だって好きで貴方の部屋に入った訳ではないのですよ」

「そのわりにはしっかりと人の部屋でくつろいでいますよね…」

「まったく、たかがクリスマスごときにうるさいのです。ちょっと廊下を歩いていれば小娘どもがいろいろと押し付けてくる」

はぁ、と息をつくとランスさんはカップに口をつけた。

なるほど。ランスさんはモテモテだからなぁ。つまり、したっぱ女子たちがいろいろなプレゼントをランスさんにあげたんだな。だから私のベットがプレゼントの海になっているのか。

それにしても避難先が私の部屋とは…帰り道にいろいろと考えていたことは実行できなくなってしまったようだ…残念。

「つまり、騒ぎが落ち着くまでここにいさせろと」

「えぇ。文句は言わせませんよ」

「はいはい、分かりましたよ…」

椅子から立ち上がり、戸棚にあるコップを手に持ち、冷蔵庫へと向かう。
開けて中から水の入ったペットボトルを出してコップへと注ぎ、戻して再び椅子へと座った。

「にしても、美味しそうなケーキですね。これも貰い物ですか?」

「…えぇ、そうですよ」

テーブルの上に置いてある1人用サイズのクリスマスケーキ。
苺が円を描いて乗っていて、生クリームたっぷりのケーキだ。
……美味しそうだなぁ。
というか、すごく上手い。お店で売っているケーキじゃないかってくらい本格的な外見だ。

これは凄い。何回でも言っちゃうくらい凄い。
ランスさんに猛アタック!ってヤツですか。

「あげますよ」

「……はい?」

「だから、あげると言っているのですよ」

めんどくさそうに言うランスさんに思わず椅子から落ちそうになった。
危ない危ない…って違う違う!
今、この人はなんと言った。

「だ、駄目ですよ!いいですか、このケーキにはしたっぱ女子のあつーい気持ちがこめられているんですよ!」

「甘い物は得意ではありません」

「…じゃあ、せめて一口くらい食べましょうよ。可哀想じゃないですか」

きっとランスさんのためを思って作ったケーキだ。
そんなケーキを私が食べていいのか…バレたら怖いな…

ランスさんからの返答を待っていると、相変わらず気乗りをしない様子だったが「仕方がないですね」と折れてくれた。

その言葉に頷きながら私はフォークを取るべく立ち上がる。

戸棚の引き出しからフォークを2本取り出し、椅子に座る。

「はい、ランスさん」

しかし、ランスさんは受け取らない。
食べると言ったくせに。

「あのぉ…受け取ってくれませんか」

「レイムが食べさせてくれるのではないのですか?」

「……はい!?」

待て待て待て!
何かがおかしいぞ。
なんで私が食べさせてあげ…!?

混乱する私をランスさんは愉快そうに見ている。

「さぁ、レイム。早くしてください」

……し、したっぱ女子のためぇ!わ、私は参ります…!

フォークでケーキを一口サイズにし、上に乗せる。

「ど、どうぞ」

「では、頂きます」

フォークを持っている腕を引かれる。

ぱくっ、とランスさんがケーキを口の中に含んだ。その姿に内心ではドキドキだ。絵になっていますよ、ランスさん。

「……甘い」

顔をしかめながらランスさんは言うとコップの水を一気に口の中に流し込んだ。
ランスさんって甘い物、得意じゃないんだ。まぁ確かに好きそうには見えないな(コーヒーとかも甘さ控えめだし)

「……甘すぎる。これだから買ってきた物は嫌なのですよ…」

「何か言いました?」

ぼそっとランスさんが何か呟いたが聞き取れず、聞き返したが「何でもないですよ」と返された。気になるが、恐らく言ってはくれないだろう。と、ランスさんがテーブルの真ん中に置いてあるケーキをこちらへと動かした。

「あとはどうぞ。私はいらないですから」

「……本当に私が食べていいんですかね」

「バレなければ大丈夫ですよ」

「じゃ、じゃあ…いっただきまーっす!」

緩む頬が抑えられない。
ケーキなんて何年ぶりだろう!
一口サイズに切り、口の中に入れる。

「ん〜美味しい〜!」

口の中で生クリームがふわっと溶けて、スポンジもふわふわ!
たまらない!!うまい、うまいですよ、したっぱ女子!いいお嫁さんになれるよ、君!

「幸せです〜」

食べるのに夢中になった私は気がつかなかった。
その時のランスさんの目が凄く穏やかだったことに。









happy day




(ふむ…どれも同じに見えますね…どこがどう違うというのでしょうか)
(あら、何をしているの)
(アテナですか。見れば分かるでしょう)
(クリスマスケーキのカタログ?…うふふ、なるほどねぇ)
(…なんですか、その表情は)
(別に。…そういえばあの子、ショートケーキが好きだって前言っていたわねぇ)
(――あの子?誰のことだか分からないのですが)
(あらぁ、あたくしの独り言よ。気にしないで)
(……ショートケーキ、ですか)










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