素敵にアホな君へ


目の前に差し出された小さな箱。
思わず持ち主を見ると彼は微笑んだ。

……き、気持ち悪すぎる。

「どうしました?受け取ってくれないのですか」

一体この箱の中には何が入ったいるんだ…?
満面の笑みのランスさんと箱を交互に見やり、私は冷静に考える。

直感的にこの箱は危ないと感じる。
そもそも彼が何もなしに私に箱をあげる訳がない。
箱の中に入っているものは…恐らく危険な物だろう。何かは知らないが危ない。断言できる。この上司の下で働くようになってから数ヵ月。段々と彼のことも分かってきた。
だから断言できる。これを受け取ったらいけない。

「え、遠慮します」

「なぜです?私はいつもよく働いてくれている貴方に差し上げたいのですが」

思わず私は彼から視線を外し、口元を押さえた。
き、気持ち悪すぎる…!
何を考えているんだ、この人は…!?

「なんか気持ち悪くなってきた…」

「さあ、受け取ってください。それとも、私からの贈り物は受け取ってくれないのですか?」

う、うぜぇぇぇ!!
何を企んでいるんだ!?

「なぁ、レイム。受け取ってやれよ」

今まで事の成り行きを見守っていたラムダさまが口を挟んできた。

「でっ、でも!」

「いいじゃないか。受け取って、開けなければいいだけだぞ」

おおっ!ナイスなアイディア!さすがラムダさま!
そうだ。開けなければいいんだ。私ってばなんで思い付かなかったんだろう。

「ランスさん」

「はい、どうぞ」

すっ、と差し出された箱を受け取った。
これで開けなければ…
あ、けなければ…

「……」

…開けたくなってきた。
いやいや。ダメだ、レイム。開けたらランスさんの思うつぼだ。
開けてはいけない、開けては…――

……開けちゃおっかなぁ。せっかくランスさんがくれた物だし。
よし、開けてみよう!

しゅる、とリボンをほどく。
私は箱を見ていたから気がつかなかったが、その時のランスさんの表情は笑いを堪えるのに必死だったと後でラムダさまは語った。

ぱかっ、と蓋を開けると――

突然、ぶわっと水が勢いよく顔面に直撃した。

「……ぷっ」

小さくランスさんが吹き出したのが聞こえ、私はびしょびしょになった顔面をそちらに向けた。

「……」

「お前さぁ…開けるなよ…」

ラムダさまがハンカチを差し出してくれた。
素直にそれを受け取り、顔を拭く。

「ぶはっ!ほ、本当に貴方はバカですよねっ…!あ、開けるなって言われたのに…っ!」

私から背を向けて笑っているランスさん。

なんだか虚しくなってしまった。
本当に私はバカだ。くそっ…!

「私が貴方に何かをあげる訳がないというのに。本当にバカですよねぇ」

「……」

ラムダさまが頭を撫でてくれなかったら私は泣き崩れていただろう。

「…転職したい」

ぽつりと呟いた言葉は虚しくランスさんの笑い声が響く部屋を通過していくだけだった。








(あぁ、楽しいですねぇ)(ランス、あんまり苛め過ぎるなよ)









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