美的感覚は何処


どうしてこういう展開になるのだろうか。



「はっくしゅん!…うーっ、寒い〜」

ずーっ、と鼻をすすり手を擦る。
吐く息が白いのだから寒いに決まっている。

「レイム、大丈夫?」

「アテナさまぁ〜寒くて死にそうです…」

先を歩くアテナさまがこちらを振り返る。
もこもこのコートに手袋という完全防寒な格好のアテナさま。私の防寒対策というとセール中に買った安物のセーターと手袋だけだ。アテナさま、あったかそうだな…

「貴方も厚着をしてこればよかったのに」

「……」

これが私の厚着なんですよ。ううっ、なんだか切ない…

――そもそも、なんでまだ薄暗い山道を歩いているんだ。

「アテナさま。私たちはどこに向かっているんですか?」

「あら、ランスは何も言わなかったの?」

「はい。ただ人の部屋に勝手に入ってきて、とっとと着替えろしか言いませんでした」

もはやプライバシーなどないに等しい。というかレディの部屋に堂々と勝手に入ってきて布団を剥がすというのはどうなのだろうか。あんなことをされたのは久しぶりだ。

それを聞いて吹き出したのはアテナさまの前を歩くラムダさまだった。

「マジかよ。お前本当にランスに好かれているよなー」

「寝言は寝てから言ってくださいよ、ラムダさま」

「そうですよ。朝から気分が一層悪くなりました」

そう言ってきたのは私の隣を歩くランスさん。
ちなみにこちらもかなりの厚着である。

「一層って…そんなに朝日を見るのが嫌なのかよ、お前」

「えぇ。時間の無駄ですよ」

…なるほど。新年一発目の朝日を拝みに来たのか。
多忙な日々で忘れていたが、今日は1月1日。世間では子供たちが大人からお金を巻き上げ…貰う日だ。羨ましい。少し私に寄越しなさいよ…!

「ですから、さっさと用を済ませますよ」

はぁ、とため息を洩らすとランスさんは歩く速度を速める。
その背に私は疑問に思ったことを投げ掛けた。

「ランスさん」

……返事はない。仕方がない。もう一度だ。

「ランスさん!」

「うるさい。黙りなさい。それ以上口を開くのなら減給ですよ」

「ななっ…しょ、職権乱用ですよ、それっ!」

「…相手をするのも疲れる。ラムダ、代わりなさい」

「どうしてそこで俺様に振ってくるんだよ…」

…駄目だ。今のランスさんは早朝と朝日を見るのが嫌で堪らないからか、とても機嫌が悪い。こういう時は話しかけても罵られるだけだ。私にそういう趣味はない。
ここはおとなしく歩こう。
急に黙った私にアテナさまが小さく笑った。



「ごごが、山頂、でずが…?」

「お前、鼻声になってるぞ」

「うーっ、寒い寒い寒い!ラムダさまには分かりませんよ、この寒さ!」

ぎゃあぎゃあ騒いでいるとランスさんに睨まれた。ひぃっ、目が怖い…
慌てて目をそらし、アポロさまに話しかける。

「アポロさま、朝日はまだですか…?」

「あと1時間ぐらいですかね」

「いっいい1時間…」

その間に凍死してしまうよ…っ!
ますます体温が下がった気がする…

「アポロさま、私死んでしまうです…」

「大袈裟な。…しかしレイムは薄着ですからね。私のマフラーを貸してあげましょうか?」

「ほ、本当ですか!?あ、でもそうするとアポロさまが」

「寒さで震えている女性が目の前にいるのに何もしないわけにはいかないですよ」

紳士だ。紳士がここにいるよ!
青色のマフラーを手渡され、私は思わずじーんとしてしまった。まさに天の助け。

くるっとマフラーを巻くと途端にぽかぽかとしてきた。
あったかい…!これなら1時間はもつぞ。

「アポロさま、ありがとうございます!」

「いえ。…さて、ではここで解散しましょう。朝日を見たらここに再び集まる、ということで」

はーい、と返事をし、後ろを振り返ろうとしたとき。

突然マフラーを思いっきり後ろへ引っ張られた。

「うげっ!?」

こんなことをするのはあの人しかいない。

ぎぎっ、とぎこちない動作で後ろを見ると案の定、ランスさんが無表情でマフラーを引っ張っていた。

「ちょ、ランスさん、しっ死ぬって…!」

「あぁ、すいません。手が勝手に」

ぱっ、と手を離すランスさんを睨み付ける。嘘だ、絶対に嘘だ…!

「いきなり何をするんですかっ!」

「さて、行きますよ」

「え?ちょ、待ってくださ、だから、首がぁぁ!!」

私の叫び声に答える人はいなかった。
…助けてくださいよ!!












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