そばにいさせて


怖い怖い怖いーっ!!



「うっ、ひっく…」

暗闇の中で洩れる微かな嗚咽に静かに息をつく。

「レイム」

名前を呼ぶが、返事はない。
まったく、世話の焼ける部下だ。

「泣き止みなさい」

そっと頭を撫でてやると微かにレイムが動いた。

「りゃんしゅしゃぁぁん…」

ずずっ、と鼻を啜る音に顔をしかめながら「なんですか」と返す。

「いつにっ、なったら電気がつくんですかぁ…!」

「知りませんよ、そんなこと」

面倒なことになりましたよ、まったく。
レイムがいつまでもたらたらと仕事をやっているせいで今日も残業になり、気分が悪いというのに停電とは。
しかもポケギアでアポロに連絡をとっているとレイムが泣きながらこちらに突撃してきますし、まったくもって面倒だ。

「うぅぅぅっ…早く明るくなってよぉ」

ぐすっ、と鼻を啜る音を聞きながらソファに座っている私に抱きついて泣いているレイムの頭をもう一度撫でる。

「少しは黙りなさい。うるさくて仕方がない」

「だ、だって、暗くて…!」

「もう少しで復旧しますよ…多分」

ポケギアの時計で時間を確認すると停電してから10分が経過していた。
……遅いですね、アポロ。

それにしても、まさかレイムが泣きついてくるとは想定外でしたね。
暗闇が苦手とは。

「レイム」

「なっ、なんですか…」

「暗闇が怖いなどと言っていたら洞窟も行けないでしょう」

「どっ、洞窟は大丈夫ですっ。ヒトカゲがいつも明るくしてくれていたから!」

ほぉ、ヒトカゲを持っているのですか。初耳ですね。

「フライゴンしか持っていないと思っていましたよ」

「そ、そんなわけないじゃないですか!私、これでもここに入る前は普通のトレーナーだったんですよっ」

「そういえば、ミニリュウは持っていないのですか?」

「い、いません。イブキ姉さんに譲りました」

私のフライゴンはナックラーの時に氷の洞窟で捨てられていた子なんです、と聞いてもいないことを言うレイム。
普段、自分のことをほとんど言わないレイムが珍しく話すのは恐怖心を私と話すことで和らげようとしているからでしょうね。

「そうだったのですか」

これ以上泣かれてもうるさいだけですので少しだけ相手をしてあげますか。

「あ、あの、ランスさん」

「なんですか?」

「ランスさんは、ここにいても大丈夫なんですか…?」

「アポロがいれば心配ありませんよ」

「で、でも」

……これはバカですね。
仮に私が部屋を後にしたらレイムはどうする気なのですか。

「しつこいですよ」

「ご、ごめんなさい…」

ぎゅっ、と私の服を掴むレイム。
……調子が狂いますね。
なんだか居心地が悪い感じだ。

「は、はやく電気ついてくれないかな…」

「本当ですよ、まったく」

…とは言ったものの、この想定外な展開は嫌ではない。好いている女が抱きついてきたのですから。
まぁ、抱きついてきた本人はただ恐怖心を和らげたいだけですがね。

「ランス、さん、ふわぁ…」

「…レイム?」

――ちょっと待ちなさい!この状態で寝る気ですか、貴方は!?

「こら、寝ようとするではありません!」

「大丈夫、ですよぉ…私、ねませ…」

……言っているそばから寝ているではありませんか!
起きなさい、と言いながら頭を叩くが、反応はない。泣き疲れて寝るのは子供だけにしてくださいよ、まったく!

静かに寝息をたて始めるレイムにため息をついた直後、ばちんと頭上で音がした。と、同時に視界が明るくなる。

「やっと復旧しましたか」

タイミングが悪すぎる。
部屋が明るくなったというのにこのバカが熟睡し出したせいで身動きがとれない(しかも服を思いっきり掴まれていますし)

「ふぅ…」

…仕方がありませんね。
私も寝ますか。
どこか不安げな表情で眠っているレイムの頭を撫で、ゆっくりと瞳を閉じた。








(ふわぁ、よく寝た…ぎゃあああ!?)(…なんですか、うるさいですね…)









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