天気予報は当たらない


やっぱり当たらない。



信じることはいいことだ。
ポケモンを信じる、人を信じる。うん、素晴らしいことだと思う。
…しかし。

「時として裏切られる…」

…言葉に出して脱力感に襲われた。
目の前の光景に私はため息をついた。

朝に見た天気予報では1日中晴れだって言ったのに。
なのに、目の前では大粒の滴が上から滝のように降っているではないか。
再びため息をつき、どうするか考える。

今、私がいるのはコガネシティにあるデパートの入口。久しぶりの休暇を貰い、ぶらぶらとしに来ていた。
ちなみに今日はセールの日だったらしく、日用雑貨などが安かったのでいろいろと買い込んだ。セールって素晴らしい。

「あーうー、どうしよう…」

相棒のフライゴンは雨が大嫌いだ。飛んで、と言っても絶対に飛んでくれない。
このまま雨が止むのを待つべきなのだが、先程ポケギアで聞いたラジオでは明日の朝方まで雨と言っていた。
おいおい…どうすればいいんだ。

お手上げ状態とはこのことだ。…そういえばこれまたラジオで聞いたのだけど、今日の占いの運勢は悪かったな。信用すればよかった…

立ち尽くす私の前を微笑む母親と無邪気に笑う子供が仲良く1つの傘に入って通り過ぎていく。

なんという微笑ましい光景。私にもあんなに無邪気に笑う時代があったんだろうなぁ…

って、それは置いといて。
とりあえずデパートの中に入るかな…ずっと外にいたら風邪を引いちゃうかもしれないし。

はぁ、とため息をつき、再び空を見上げる。
止む気配はなかった。これは…今夜の寝るところを探さないといけないな…




――体が痛い。特に枕にしている腕が。
やっぱりステーションの椅子はベッド代わりにはならないか…しかしホテルは高かったから仕方がないよね…ん?
ぼんやりと考えているとポケットの中で騒いでいるポケギアに気づいた。

誰よ…人の眠りを邪魔するのは…

ふわふわとする意識の中でポケギアを取り出し、通話ボタンを押す。

「もしも「どこにいるのですか、貴方は!?」

大音量で聞こえてきた声にふわふわしていた感覚が一気に吹き飛んだ。

「あ、ランスさん…おはようございます」

ふわぁ、と欠伸をしながら言うとまたランスさんの大音量の声。

「質問に答えなさい!今、どこにいるのですか!?」

「(うるさいなぁ…)えーっと…コガネシティのステーションです」

そう答え、ステーションにある時計を見る。
時刻は5時過ぎ。まだステーションには人はいない。始発は確か…6時だったかな。

あ、そういえば…

時計から視線を外し、窓を見る。
…まだ降っているか。よく降るなぁ…

仕方がない。怒られるのを覚悟して言うしかない。

「あのーランスさん」

「……」

「ランスさーん!」

「…、なんですか」

ん…?なんか動揺しているような…気のせいかな。

「雨が止んでからアジトに行きます」

「はい…?フライゴンはどうしたのですか」

「雨が苦手なんですよ、この子」

「無理矢理飛べさせればいいでしょう」

「それが出来たらもう帰っていますって…」

寝転がっていた体勢から椅子に座る体勢へとして、私は鞄の中からフライゴンがいるボールを取り出した。
すでに起きていたらしく、目はぱっちり。その丸く、赤い両目が私に雨は嫌だと訴えてきている。
はいはい、分かっているよ。

「ってな訳でお願いしますね」

「は?ちょっと待ちなさ――」

何か言いかけていたけどその前に通話を切った。
ランスさんに絶対反対されるって思ったからだ。
ポケギアをポケットにしまい込み、軽く伸びをする。その時に窓を見たが、昨日と変わらず雨は勢いよく降っていた。

「フライゴン。雨、止まないねー」

ボールの中にいる相棒に声をかければ相棒はこくこくと頷いた。
早く止まないかな…この広い空間に1人と1匹でいるのはなかなか寂しいぞ…

雨が止むのを待ちながらフライゴンと話す。
――どれくらい経ったのだろうか。
そう思い、ポケギアを取り出して時刻を確認する。

「5時30分か…そろそろ人が来るなぁ」

そう言った直後、ステーションの自動ドアが開く音がした。
この時間に来る人といえば日々家庭のために仕事を頑張っているお父さんか、カントー地方の学校に通っている学生さんだ。
いずれにしろ、私には関係のない人だ、とポケギアを見る。

カツカツ、と靴の音が響く。
靴の音はだんだんとこちらへと近づいてきて――

私の目の前で止まった。

不思議に思い、頭を上げるのと頭に衝撃が走ったのは同時だった。

「いったぁ!!」

あまりの痛さにボールとポケギアを床に落とす(フライゴン、ごめんね!)

「な、なに――」

頭を押さえながら上を見上げるとそこにいたのは意外な人物だった。

「ラ、ランスさん!?」

なんとびっくり!
そこには私服姿のランスさんが不機嫌な表情を隠さないで腕を組んで立っていたのだ。

夢…じゃないよね。相変わらず頭はひりひりするから。

「ど、どど…!?」

「うるさいですね。私の機嫌が良くないと分からないのですか」

「あ、いや、分かりますよ…分かりますけど、どうして…?」

駄目だ。頭が混乱していてうまく言葉が出てこない。
ま、まさか私をわざわざ迎えに来てくれたの…?
いやいや、恋する乙女モードに入ってはいけない。…ランスさんのことだ。きっと仕事が溜まっていて、それを処理させようと来たに違いない。
そうだ。きっとそうだ…

「貴方がいなければ誰が書類を整理するのですか」

「…ですよねー」

分かりきっていたことだけど…!なんか悲しいぞ…
…あれ?なんで悲しいんだろうか…?

「さぁ、早く行きますよ」

ランスさんが私に背を向ける。
その後ろ姿を私は複雑な心境で見つめた。
何がなんだか…頭の中がごちゃごちゃだ。
むーっ、と唸っているとランスさんがぽつりと何か言った。

「…心配しましたよ、まったく」

「…ほぇ?ランスさん、どうかしましたか?」

「…何でもないですよ」

…まずい。よく分からんが、ますます不機嫌にさせてしまったらしい。ランスさんの背後からただならぬ何かが見えるのは気のせいじゃないよね…!

「ラ、ランスさん…?」

「お黙りなさい。早く行くと言っているではないですか」

「は、はいぃぃぃ!!ごめんなさいーっ!」

慌ててボールとポケギアを拾い、鞄の中へと詰め込むと立ち上がる。
そして、どんどん先を歩いていくランスさんを追いかけた。








(あ、雨止んでる!)(…バカ過ぎて話になりませんね)









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