にらめっこは日常茶飯事


いつものお仕事な訳ですが。



人間には得手不得手がある。
例えば勉強は出来るけど運動が出来ないとか。
まぁ、いろいろあるわけだが、書類整理というものは残念ながらそれには当てはまらない。
ただ心を無にしてひたすら書類の束を整頓していく。それだけのことだ。
…………
なんか切なくなった…

「これもランスさんのせいだーっ!!」

バン!と両手で業務用の机を叩く。
すると衝撃で数枚の書類がひらひらと宙を舞う。
…しまった。余計仕事を増やした気がするぞ。
きっとこういうところがバカって言われる理由なんだろうな…

椅子から立ち上がり、床に散らばった紙を1枚ずつ拾う。――しばらくし、ドアが勢いよく開かれた。ここに来る人物なんて1人しかいない。

「あ、ランスさん。お帰りなさい」

「まだやっていたのですか」

机と私を交互に見たランスさんは呆れた表情をした。まだ、と言うがやるように言われてから10分ぐらいしか経っていないんだけど。

「そんなに早く出来ません!どれだけあると思っているんですかっ」

「次がまだあるのですよ」

恐ろしい台詞を吐いたランスさんは後ろにいるしたっぱ(男子)に指示を出す。
したっぱがこちらを憐れむような視線を送りながら書類の束を机に置いた。
同情をするのなら金をくれ…ではなく手伝ってください。

しかし、そんな私の願いも虚しく彼はランスさんに一瞥をし、部屋から出ていった。ちくしょう、恨んでやる。

「嬉しそうにしていますね」

「どこをどう見たらそう受け取れるんですか」

「口よりも手を動かさなければますます溜まっていきますよ」

「まだ来るんですか…」

そうとは思っていましたけどね!
ずばばば、と紙をかき集め、勢いよく椅子に座る(椅子が悲鳴を上げたのは気のせい!)

「あの、ランスさん」

「何ですか」

「ランスさんもやってくださいよ。そもそもこれってランスさんがやるものですよね」

ふかふかのソファに腰掛け、こちらを見るランスさんの表情は答えるのが、または書類整理がなのか、よく分からないが、めんどくさそうにしている。

私は知っている。私がやるよりもランスさんがやる方がすぐに終わることを。
そこまでして私にやらせないといけない理由があるのだろうか。……いや、ランスさんのことだ。恐らく――

「決まっているではないですか。面倒なだけです」

「…やっぱりそうですか」

書類をぱらぱらと見て判子を押したり、字を付け加える。そのあとはその書類をアポロさまに届けたりなどなど。…確かに面倒だ。
しかし、内容を見ると明らかにランスさん絡みの内容ばかりで。
正直したっぱの私が整理しても良い物なのかとは思うわけだ。

「どうせろくでもない内容なのです。適当に提出をすればいいのですよ」

「直属の部下の個人情報もろくでもないんですか、貴方は」

「愚問ですね」

きっぱりと言い捨てたランスさんに思わず拍手をしそうになる。

「必要な書類だけ見せなさい。後は捨てるか他の幹部たちに届ければいいのです」

「その必要な書類ってのがどれなのか未だに分からないんですが」

「自分で考えなさい。貴女の頭はプラモデルの付属品なのですか」

「プ、プラモデルの付属品…」

すごい表現だな…って感心をしている場合じゃない。
私は1枚の紙をランスさんに突き付けた。

「これはいらない書類ですか?」

「それは必要ないでしょう」

「これは?」

「…レイム。私がなぜここに来たのか理解しなさい」

苛立ちを含んだ声音で返され、仕方がないので黙る。

いっそうのこと全部書類を捨ててみようかと思ったが速攻で考えを削除した。まだ死にたくない。
書類の山のてっぺんから1枚の薄っぺらな紙を取り、読む。これは…今度の会合の書類?

「ランスさん。明日、会合があるらしいですよ」

「…めんどくさい。捨ててしまいなさい」

「いやいや、捨てちゃダメですよね!?」

「捨ててしまえば知らなかったことになります。…あぁ、責任は全部貴方のせいになりますが気にしないでくださいね」

「気にしますってば!」

そんなことになったら減給ではないか!ただでさえ金欠だというのに!

私は慌てて椅子から立ち上がり、だるそうにしているランスさんへと紙を持って行く。

「はい、どうぞ!」

「…めんどくさい」

ゆるゆるとランスさんは紙へと手を伸ばし、掴む。
ゆっくりと目が字の列を追うのを見てほっとする。減給だけは勘弁だ。

「…はぁ、くだらない」

そう言うや紙を丸めるランスさん。
え…えぇ!?

「ちょ、ランスさん!?」

「うるさい。耳元で叫ばないでください」

「大事な書類ですよね、それ!?」

「会合の内容のことは頭に入りましたよ。私は貴方と頭の出来が違うのですよ」

はっ、と鼻で笑いながらランスさんはそのままごみ箱へと丸めた紙をシュート。
おおっ、すごい!ここからごみ箱まで結構距離があるのに。

などと感心をしながらごみ箱の方を見ていると、不意にドアがリズムよく叩かれた。

「入りなさい」

ランスさんの声の数秒後「失礼します」と言いながら部屋に入ってきたのは書類の山だった。

「な、なな…!?」

あまりの量に一歩後ろへと退く。
なんという量だ…

「あそこの机に置きなさい」

ランスさんの言葉に書類を持ってきたしたっぱたちは机に置いていく。そんなそんなぁ…!いくらなんでも多すぎる!
慌ててランスさんを見れば心の底から楽しそうな笑顔。

「出来の良い部下を持って私は幸せですよ」

そんなことなどこれっぽっちも思っていないクセに…!

さまざまな感情が渦巻く胸に手を当てながら私は増えていく書類の山を呆然としながら見るのであった。











(ひぇぇっ、残業確定ルート…)(さぁ、給料分働きなさい)(明らかに給料分以上働いていますよね、私!?)








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