093:生まれ変わったら今度は優しい恋をしよう


世界とはいつ何が起こるのか分からない。完璧な予測など誰も出来やしないのだ。
では予感は出来るのだろうか。もしかしたらちょっとした事…例えば今日は雨が降りそうだとかそういった類の事は出来るのかもしれない。
だが、長年慕っていた人物とこうして同じ一室で生活をするなどという未来を誰が予測や予感をできたものか。
ずっと片想いで終わるであろうと思っていただけにまさに完璧に想定外であり予測不可能な事である。
「また気難しい顔をしているな」
私の顔を見て慕っていた人物…いや今は未来の旦那様と言うべきか?いやそれはまだ早いか。今の私と彼…カインさんはただ同棲をしているだけなのだから。
いやでもずっと傍にいてくれないかというプロポーズみたいなものを受け取った気がするので「ただ同棲」という表現は些か悪いのかもしれない。となると果たしてどのような言葉が似合うのか。
「ますます気難しい顔になっているぞ。何を考えているんだ」
少しだけ呆れを滲ませた声音で言うカインさんに思考を中断させる。
穏やかな日差しが射しこむバロン城の一室。日々多忙なカインさんがこの時間帯にいるのは珍しい事だ。
テーブルを挟んでカインさんの向かいの椅子に座っている私は視線をゆるゆるとカインさんへと向ける。日差しを浴びた金色の美しい髪が更に美しさを増しており、思わず眩しいと感じる。いや眩しいのは髪だけではないが。
「何って…カインさんの事?」
「疑問形か。あといい加減さん付けはやめてくれないか」
「そうは言ってもずっとさん付けで敬語だった訳ですしそう簡単には変えれませんって」
目上の人に敬語を使うのは当たり前だしましてや彼は過去に世界を救った英雄様である。…そう述べると私自身も当てはまるのかもしれないが。
けれど世界を救った回数で言えばカインさんの方が1つ多いのでやっぱり私が英雄と述べるのは失礼な物である。そもそも私は成り行きでもう一つの月に行ったようなものだった訳で。
「……毎回思うがお前は人の顔を見ながら考え事をするのが多くないか」
「大丈夫です、カインさん以外にはしていないので」
「……それは光栄だな」
少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべながらカインさんが私へと腕を伸ばす。
じっと動かずに腕の動きだけを見ていれば腕は私の頬の横で動きを止めた。そして直後頬に温かい感触。
「お前は見ていると飽きないな」
私の頬を撫でながらカインさんは微笑む。
今の言葉は褒められているのだろうか。よく意味は分からなかったがとりあえず礼を述べる。するとカインさんはくつくつと小さく笑い声を洩らす。
たまにカインさんが良く分からない。そもそも私はかつて彼が好いていたローザさんとは全然違う(これには容姿や言動が含まれている)
告白をされた時に聞いたのだがはぐらかされてしまったので結局いまだにカインさんが私を好いている理由が良く分からない。
私はローザさんの様にお淑やかなではないし芯も強くないしどちらかといえば無愛想だ。似ているところ…といえば白魔法が使える事くらいだろうか。
「カインさん」
「なんだ」
「なんで私を選んだのですか?」
「またその話か」
「カインさんがはっきりと答えてくれないからですよ。はっきりと答えてくれるまでずっと聞きますからね」
頬に触れている手に自身の手を重ねる。
少しだけひんやりとしている手だが程よい温かさだ。そのバランスがなんだかカインさんらしい。
「そんなに理由が必要か?」
「そこまで言われると悩んでしまいますけど、でもやっぱり気になりますよ。私、ローザさんと全然違うし」
ローザさんの名前を出した時、一瞬だけ手の動きが止まった事に気付く。
けれども気付いていない様に装いながらカインさんをじっと見る。しばらくの間の後、青空の様な瞳が微かに細められた。
「理由などない。ただシオンにずっと傍にいて欲しいと思っただけだ」
何度も問い、そして繰り返される言葉。これは嘘偽りのない本心なんだろう。
けれども私はそれでは納得が出来ないのだ。
だって彼の傍にいる人は沢山いるではないか。だから何も私がわざわざいる必要などないというのに。
「カインさんの傍には沢山人がいるじゃないですか」
「…そうだな。だがその大勢いる人の中でお前に一番傍にいてもらいたいのだ」
少しだけ困った様な表情を浮かべるカインさん。いや困っているのはこちらなのだが。
別にカインさんの言葉を信用していないだとかそういう事ではないのだ。彼が嘘をつくとは思えないし。
ただ何故かその言葉だけではいまいち腑に落ちないのだ。
「よく分からないんですよね。カインさんを信用していないだとかそういう事ではないんですけど。その言葉だけだとどうもしっくり来なくて」
「俺ははっきりと伝えているつもりなんだがな」
「私からしたらはっきりじゃないんですよねえ。うーん…そのうち分かるかな」
「そうかもしれないな。俺もお前が納得を出来る言葉を探すさ」
共にいればいずれはっきりとした答えが見つかるのだろうか。そうであってもらいたいものだ。
時間はまだある。焦ったところで見つかるものでもないだろうしゆっくりと探していこう。

繰り返される話を中断させるように他愛のない話を振りながら私は心の中で小さく息を洩らした。









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