第57回


*使用したお題*
あなただけの香り

なぜそんなに甘い物を嗜むのか、とよく聞かれる。その問いをしたくなる気持ちは何となく分かるしそういった質問は多く答えてきた。常に甘い物を持ち歩き、口に含んでいないと気が済まない。そのせいか私は常に甘い香りを纏っており、その匂いに釣られて子供達がこちらを夜空に浮かぶ星の様に瞳を輝かせて見てきた事は少なくはない。だが私は彼等が期待する物売りではないのだ。…とはいってもさすがにそうは見られてはあげるしか選択肢はないのだが。
今日も立ち寄った街の一角で子供達に捕まり、泣く泣く隠し持っていたクッキーやら飴を渡していた時であった。後ろから私を呼ぶ聴き慣れた声がし、振り返ればそこにはいつもの様に人を惹きつける不思議な不思議な笑みを浮かべているエドガーの姿があった。
エドガー、と名前を呼べばその声を合図にするかのように彼がこちらへと歩いてくる。と、今まで私の周りでお菓子に夢中になっていた子供達がその足音に気付いたのか我に返り、彼と私を交互に見やり元気よくお礼を言うやぱたぱたと彼とは逆の方角へと駆けだす。その彼らの後ろ姿に別れの声を告げつつ片手を振る。
「元気な子達だったね」
私の隣に立つやエドガーは去って行った子供達の方角を見ながら呟く。その言葉に元気が良すぎてお菓子をほとんど持って行かれたと告げれば鼓膜に小さな笑い声が響く。その笑い声に思わず「笑いごとじゃないんだけどね」と少しだけ睨み付けながら言えばその視線に気づいたのか笑うのを止め、やれやれといった雰囲気を纏わせながら私の肩を抱く。
「今日はいつも以上にご機嫌が良くないようだね」
「別に。いつも通りだけど」
戦争のせいで食物は高騰している。甘い物だって勿論そうだ。子供の笑顔は嫌いではないが、かといって持ち歩いていた甘い物をほぼすべて持っていかれたら話は別である。要は甘い物不足なのだ。所持金も残り少ない為これではまずい。適当に外をうろついて魔物でも狩るか。そんな事を考えつつ懐にかろうじて残っていた棒付きの飴を取り出し、口に咥える。
「君が普段纏っている香りは私は好きだが君は好きではないのかな」
「そうね。こうして今みたいにたかられるからあまり好きではないかも。かといって甘い物をやめる気はないけれど」
口の中に広がる甘い香りを堪能していれば先程よりは幾分か気分がマシになってくる。大袈裟かもしれないが私にとって甘い物は精神安定剤なのだ。だから一日でも早く戦争を終わらせて甘い物を心置きなく堪能できる世界を作らなくてはならない。
飴を弄びながらそんな事を思っていれば頭上から「なら私に良い考えがあるぞ」とどこか楽しそうな声音が降ってくる。その声音に疑問に思いつつ見上げればぱちりと案の定どこか楽しそうな色を纏った青い瞳と視線が合う。
「どんな考え?」と問えばエドガーは私を抱いていない手で自身の懐から小さな瓶を取り出す。その小瓶は普段エドガーがつけている香水だ。思わず「それがどうしたの?」と聞けば待ってましたと言わんばかりにエドガーは話し出す。
「これをつければ甘い物の香りは消せるんじゃないかな」
「あ…なるほど。それは良い考えね」
「だろう?では今から君に合う香水を探しに行こうか」
「そうね……ん?今から!?」
さらりと紡がれた言葉にあやうく口の中の飴を噴出しそうになってしまった。陽はまだ傾いていないとはいえ今から探しに行くとは。というか所持金の関係でとてもじゃないが香水を買うお金はない。
「先に言っておくが金の心配なら不要だ」
「い、いやそれはさすがに」
「私がしたいだけなのだから君は何も気にしなくても良い。さて日が暮れないうちに行こうか」
ひどく上機嫌なエドガーにかける言葉が何も見つからず、どうしたものかと考えあぐねいていればそんな私に気付いたのかエドガーはくすくすと小さく笑う。その笑いを見た瞬間、どんな言葉をかけても結局は連れて行かれるのだと感じ取る。変なところで強情な王様だ。
「……香水、全然分からないから任せる」
そう告げればエドガーは眩しいくらいの笑顔で頷いたのであった。










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