第57回


*使用したお題*
遠花火
あなただけの香り

ことり、と視界の隅で見慣れた色が揺れた気がし、思わずそちらの方――座っている自身の隣へと視線を向ければ今まで静かに書物を読んでいた彼女の頭が微かに上下に揺れていた。
そっと彼女の名を呼べば、「はぁい」と気が抜けた言葉が返ってきて思わず苦笑を浮かべてしまう。窓の向こうで浮かぶ景色は青空が広がっているが今日は過ごしやすい気候だ。眠くなるのも分からなくもない。
「眠い時は寝ると良い」そう言えば閉じられていた瞳がゆっくりと開かれ、否定を意味するように頭が横に振られる。
「続きが、気になるから」
ぼそぼそと紡がれた言葉は本心だろうが瞳は再び閉じられている。手間のかかる奴だ、そう思いながらこちらへと体を引き寄せればふんわりと優しい香りが鼻孔を擽る。
その香りがかつての想い人のそれと似ていて一瞬だけ目を見張る。そういえばこの花が開花する季節はこの時期だったか。偶然にも同じ香りを身に着けている彼女に何とも言葉で表現し難い気持ちになるがそんな彼女は完全に読書を手放し、自身に寄り掛かりながら寝息を立てている。
その様子にまるで子供の様だなと思いつつ起きてから体が痛くない様に姿勢を整える。そうすれば更に密着をする形となり、香りが強くなる。
優しく、どこか切なさを覚える香りに小さく息を吐き、何気なく幸せそうに眠る彼女の寝顔を見れば微かに香りが増した気がした。










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