第56回


*使用したお題*
囁きの雨
遠い視線の先に

ぽたり、と如雨露を花たちにかざしていた手に水滴が「おや?」と疑問を抱きながら頭上を見上げればまたぽたりと水滴が今度は鼻の上に落ちる。
見れば先程までは雲一つなく晴れていた空を厚い灰色の雲が覆っていた。通り雨かなと思った直後、鈍い音を立てて何粒もの雫が体を撃つ。その攻撃に慌てて遠くに見える館へと駆け出す。
館の扉の前に辿り着いた頃には私の体はずぶ濡れであった。ぺったりと服が張り付いている感触が気持ち悪い。この様な状態では館の中へ入る事は出来ず(水滴など落としたら後で何を言われるか分かったものではない)、さてどうしたものかと考えていれば真後ろにあった扉がゆっくりと開かれる音がした。その音に疑問を覚えつつゆっくりと振り返ればそこには次期法王となられるお方がそこにいた。
「マルチェロさん?」
何故ここにいるのか。確か今は明日の演説に向けての準備をされていたのでは。そんな私の視線に気づいたのかマルチェロさんは私に向かって口を開こうとし――視線が私が手に持っている如雨露に注がれた。
「この館のメイドにでもやらせておけば良いものを」口に出さずともそう思っている事が見て取れ、思わず苦笑いを浮かべながら「やりたい気分だったんです」と言えば小さく息をつかれてしまった。
「明日がとっても大事な日だって分かってはいるんですけど、なんだか身を休めているとそわそわしてしまって」
「何故お前がそう思うのだ」
「そりゃ小さい頃からお兄さんの様に接してきてくれた人が念願の立場に立てる日なんですもの。そわそわしちゃいますって」
言いながら嬉しさから頬が緩むのを感じる。だってそうではないか。大好きな人がようやく夢を叶えられる。これ程嬉しい事はない。
私の言葉にマルチェロさんは何も言わず、雨が降り続いている外へと視線を投げる。その瞳に映っているのは手入れが行き届いている庭などではないだろう。こんなちっぽけな空間だけでは無い筈だ。
明日の新任演説が終わればこの方は晴れて新しい法王となる。彼が目指す世界への第一歩となるのだ。その第一歩を間近で見る事が出来るのが何より嬉しい。
尚も外を見つめるマルチェロさんに私は彼に倣い、外を見つめながら言葉を発する。
「この雨が止んだらきっと綺麗な虹が出ますよ。マルチェロさんの法王就任を祝福する虹に違いありません」
「ふん……そうだな」
徐々に粒が緩やかになっていく雨を見ながら私は明日の就任演説へとそっと祈りを捧げる。
願わくば、何事もなく彼が新法王へとなれるようにと。










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