ロールケーキの日


今日はついている、と片手に持っている中くらいの箱を見ながら思わず笑みが零れる。
たまたま城下町に行ったのだがそこで大好きなカフェのロールケーキを買えたのだ。このロールケーキ、他の地域からも美味しいと評判でなかなか手に入らないのだ。
しっとりとしていてふわふわでクリームも絶妙な甘さ加減。まさに甘いもの好きには堪らない逸品なのだ。
軽い足取りで城へと戻り、そのまま自室へと向かう。
今日はカインさんがいる筈だから一緒に食べよう。そう思いながらドアをそっと開ける。
「ただ今戻りました!」
「おかえり、早かったな」
部屋を出た時と同じ姿…槍の手入れをしていたカインさんがゆっくりと顔を上げ、私を見る。そして私が持っている箱に目を止め、「それはどうしたんだ?」と訊ねてきた。
そんなカインさんに待ってましたと言わんばかりに私は歩きながら考えていた言葉を口に出す。
「城下町でおいしいと評判なカフェのロールケーキちゃんです!」
「ほぉ。そんなにうまいのか?」
「はい!しっとりとしていてふわふわで程よい甘さなんですよ!カインさんも食べましょ!」
甘い物が苦手だという話は聞いた事がなかったから誘ってみれば「そうだな」と短い返答が返ってくる。その返答に内心でガッツポーズをしつつ「じゃあ準備しますね!」と返し、テーブルにそっと箱を置き、準備を始める。
ロールケーキを切り分け、お皿に移してフォークと珈琲を用意していれば槍の手入れを中断させたカインさんがテーブルの傍に来る。
「うまそうだな」とロールケーキを見ながら言うカインさんに「本当においしいんですよ!」と返し、椅子に座るように促す。
「開店してすぐに無くなっちゃう時もあるんですよ」
座ったカインさんの前に珈琲とロールケーキを置き、向かいの椅子に座る。
「そうなのか。よく買えたな」
「たまたま買えたんですよ〜ささっ、食べましょ!」
フォークを手に持ち、そっとロールケーキに刺しこむ。もうこの時点でふわふわ感が満載だ。
一口サイズに分けたロールケーキをぱくりと口の中に含めば途端にほんのりと程よい甘さの味が口の中いっぱいに広がる。思わず感嘆を含んだ息を洩らせば目の前から小さな笑い声。
ロールケーキに向けていた視線をゆっくりとあげればこちらを見ているカインさんとぱちりと目が合った。その目を見た瞬間、食べていたところを見られていたのだと理解し、同時にかぁっと一気に血が上る。
「み、み、見てたんですか…!?」
「あぁ。食べる前にどれくらい美味いのか知りたくてな」
少しだけ唇に笑みを浮かべながらそう言ったカインさんとその言葉に恥ずかしさを覚え、思わず俯けば「そう拗ねるな」とどこかからかいを含んだ声音の言葉が降ってきた。
その言葉に「拗ねてませんっ」と言いながらばっと顔を上げる。すると目の前にあったものにきょとんとしてしまった。
一口サイズのロールケーキが刺さったフォークが目の前に差し出されていたからだ。
「食べないのか?」と問うフォークの持ち主。その様子が平常心ではない私と違うのが何だか悔しくて「食べますよっ」と返しぱくりとフォークに食らいつく。
口の中に再びロールケーキの味が広がる。けれど先程よりもやけに甘ったるく感じて、食べ終わった後に思わず甘さを控えてある珈琲を口に含んでしまうのであった。









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