第34回


*使用したお題*
終わりの前に

最初の印象は「目を離すと何をしでかすか分からない」であった。年齢の割には好奇心が旺盛で初めて飛空艇に乗った時は子供の様にはしゃいであれはなんだと騒いでいた。その騒ぎ様は飛空艇の機械を壊すのではないかと思うくらいで静かにしろと怒鳴っていた思い出がある。
とにかくこの女は自身が知らないものに触れると子供の様になるのだ。だから目を離す事が出来ない。しかも変なところで鈍感である。要は傍に置いておかないと何をしでかすのか不安なのだ。
そう目の前でのほほんとココアを啜っている女を見ながら思っているとかちりと視線が合う。
「こっちを見てどうしたんですか?」とことりと首を傾げながら問う女に「何でもねぇよ」と返す。
「何でもないのに私を見てたんです?セッツァーは不思議ですねぇ」
「俺からしたらお前の方が不思議だ」
「えっ、どこがですか?」
「全部」
「そ、それって答えになってるんですか…?」
カップに口をつけながら不満そうにしているが無視をし、珈琲に口をつける。
すると「おいしいですか?」と先程までの不満を瞬時に消して期待に満ちた瞳をこちらへと向けてくる。毎度思うがこの切り替えの速さには感心をする。
「おいしそうだなぁって思って買ったのなんですよ。どうですか?」
「まぁまぁだな」
「そうですか…うーん、セッツァーが好きな味がよく分かりません…」
別に珈琲の味に五月蠅い訳ではないしそんな風に振る舞った訳でもない。だが目の前で唸っている女は何故か行く先々で様々な味を見つけては自分に勧めてくるのだ。
「前から思っていたんだがなんでお前は俺に飲ませたがるんだ?」
「へ?それはセッツァーが珈琲が好きだからですけど」
「俺がいつそんな事を言った?」
「なっ…!もしかして嫌いでしたか!?」
「普通だな」
立ち上がり、身を乗り出してきた事に若干驚きはしたものの表には出さずに答えれば「良かったです」と安心しきった表情を浮かべる。
「でもそうすると誰が珈琲が好きなんでしょうか…?」
「王様かロックじゃねぇのか」
「そうですかねー?うーん…イメージ的にはエドガーの方が似合そうですね!」
「そうか?どっちもどっちだと思うが」
「あっでも一番似合うのはセッツァーだと思いますよ。私、セッツァーが珈琲を飲んでいる姿って好きなんです」
「そりゃどうも」
さらっと好きだとか好意を示す言葉を言える事には感心を覚える。だがその好きがこの女の場合、世間一般的に女性が男性に対して言う好きとは違うのである。それはつまり自分がこの世話が焼ける女に抱いている好きとも違う意味で。
「その反応、信用してないですね?」
「安心しろ、お前は嘘をつくときはすぐ分かる」
「…それって素直に喜んでも良いんですか?」
「さぁな。自分で考えろ」
酷いです、と唇を尖らせる姿を見ながらどちらが酷いんだと思うがその言葉を言ったところで彼女は首を傾げるだけだろう。
厄介な人物を好いてしまったとは思うが後の祭りである。だが勝てない勝負ではないだろう。時間をかければ勝利はこちら側である…とは言ってもタイムリミットはこの旅が終わるまでだろうが。
甘さが控えてある珈琲を口に含みつつ目の前で話をする姿を見つめながらさてどうしたものかと今日も考えを巡らせるのであった。










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