第50回


*使用したお題*
両片思いの中間地点
息ができないほどに、囚われる

彼女はとても周りを良く見ていて、それ故に気が利く。
それは戦闘中であったり日常の一時であったり。例えば彼女が料理当番になると仲間達の苦手であったりする食べ物は決して出てこないし、逆に好きな物ばかりになる。だからガウやリルムは彼女が料理当番となると物凄く喜び、調理している彼女からは引っ付いて離れない。
他にも彼女の凄いところはいろいろあるが挙げはじめたらキリがない。
以前リルムがそんな彼女を見て母親みたいだと言っていたがまさにその通りだと思う。ティナやセリスより少し年上なくらいの年齢の子だがしっかりとし過ぎているのだ。
「マッシュ?さっきからこっちをじーっと見て、どうしたの?」
視線を感じたのか、くるりと振り返る彼女の手には陽の光をふんだんに受けた洗濯物達がいっぱいに入っている。
陽の光を受け、不思議そうにこちらを見て首を傾げる姿に思わず綺麗だなあと口から洩れかけ、慌てて引っ込める。
「な、なんでもないぜ」
自分でも分かるくらい声が裏返っている。が、彼女は特に気にした様子もなく「そう?ならいいけど」と言ってまたこちらに背を向けて洗濯物を取り込み始める。これだけ大人数で動いているのだ、洗濯物と言っても量は尋常ではない。
やはり手伝った方が良いのではないかと思うのだが先程自分の仕事だから大丈夫だと止められてしまった。彼女曰く、自分がやりたいと思って始めた事に巻き込むのは申し訳ないと。
だからこうして先程からずっとここで休憩したいと称して彼女をずっと見ているのだ。彼女の周りは常に人がいる様な状態だからこうして二人でいられる機会はほとんどない。
彼女は皆にとって母親の様な存在ではあるけれど、自分の中では別の存在であった。要は彼女に惚れているのだ。その事に気付いたのはつい最近である。だが、この気持ちを告げる訳にもいかなかった。
以前、彼女が他の女性陣と会話をしているところを偶然通りかかり、そこでうっかり聞いてしまったのだ。彼女は好いている人物がいると。
それが誰なのかは分からないが少なくとも自分ではない事には自信がある。何せ彼女と比べたら自分はがさつで明らかに真逆なのだから。好かれる要素が全くない。だから好きだと告げる訳にはいかないのだ。いくら好いていようが決して。
だがそれでも彼女と共にいる時間を少しでも良いから作りたいと思ってしまう。もしかしたら迷惑なのかもしれないが、言えない代わりに仲間として傍にいる事だけは許して貰いたい。
彼女の背を見ながら1人そう思い、気付かれぬ様に小さく息を洩らした。

背後から受ける視線に小さく胸が高鳴るのを感じながらも気付かれてはいけないと気を張りながら洗濯物を取り込む。
洗濯物を取り込もうと行った先にはマッシュがいた。何でも休憩中だったらしく、行ったタイミングが悪かったなと思った。だが、時間的にそろそろ取り込まなければせっかくお日様の光を受けた洗濯物達が台無しになってしまう。そう思って申し訳なさを感じつつも彼に許可を貰って洗濯物を取り込み始めた。
正直に言えば彼と二人っきりというものに歓喜した。だが何を話せば良いのか分からないしもともと私は話すのが得意な方ではない。そしていつもは元気で積極的に話す方であるマッシュも何故か自ら言葉を発する事をせず、発した言葉といえば私からの問いに答えただけであった。
やはり邪魔だったのかもしれない。よく皆から配慮が出来ると言われるがそれは自身の感情が入り込まないからだ。自分の感情が入ると途端にこれである。
好いている人物と一緒にいたいという気持ちを優先させた結果がこれだ。嫌われたらどうしようという思いが渦巻く。いやもう既に嫌われているのかもしれない。だっていつもなら沢山話しかけてきてくれるのに今日は何も話しかけてくれない。
マッシュが好きだと気づいたのはいつだったか。彼が私が作る料理がおいしいと喜んでくれたのがきっかけだったのかもしれない。いろんな人においしいと喜んで貰えた事は多いけれどその中でもマッシュに喜んで貰えたのが一番嬉しかった。だから当番の時はこっそり彼の分だけ多くしたりもしている。
つまりは私はマッシュが喜んだり嬉しそうにしているのが好きなのだ。そしてそんな彼をずっと傍で見たいと思っている。だが彼の周りには常に人が溢れているし何より彼は王族だ。一般人の私とは違いすぎる。
だから言う訳にはいかないのだ。好きだなんて言ってしまったらきっと迷惑をかけてしまう。彼は優しいから。
でも。それでも、彼の隣に仲間としていたいと思ってしまう。恋人としては無理だけれど仲間としてなら。もうそれで良いのだ。諦めに似た様な感情だけれど私はもうそれで満足をするしかないのだ。
洗濯を取り込みながらそう思っていると不意に先程まで感じていた光が陰る。空を見上げれば先程まではあんなに晴れていたのに雲が覆い始めていた。もしかしたら一雨くるかもしれない。
「マッシュ。雨、降るかも」
振り返りながらそう言うが返事はなかった。見ればマッシュはぼーっとこちらを見ている。
「ど、どうしたの…?」
見られている事に再び鼓動が早まる。それを必死に抑えながら言えば私の言葉にはっとしたのかマッシュが「な、なんだっ?」と言葉を返してきた。
「雨が降りそうかもって…ここにいたら濡れちゃうかも」
「へ!?あ、あぁ、本当だな…」
「さ、さっきから大丈夫…?どこか体調が悪いの…?」
こちらをじっと見ていたり、ぼーっとしていたり。どこか体調が悪いのだろうか。もしそうだったら体に良い物を作ってあげなければと思っていれば「違う!」と慌てた声が返ってきた。
「そ、そんなんじゃないから大丈夫だぜ!」
「なら良いけど…」
「あ、雨降りそうなんだろ?なら俺も手伝うよ」
「えっ?だ、大丈夫だよ」
「いいからいいから!もし雨が降ってきて濡れて風邪でも引いたら大変だろ?」
言いながら残りの洗濯物をひょいひょいと取り込んでいくマッシュ。
一方の私はといえばマッシュのさり気無い言葉に固まっていた。あぁこういう事を言うからますます好きになってしまう。
「よし、これで全部だな!じゃあ戻ろうぜ」
「え、あ、うん!あ、ありがとね」
「良いって良いって。お互い様だろ?」
洗濯物が入った籠を抱えながらマッシュが笑う。いつ見ても素敵な笑顔だ。例えるなら先程まで出ていた陽のように温かい笑顔。
「さっ、中に入ろうぜ」
「うん」
歩き出したマッシュの隣に慌てて並び、願う。
いつまでもこうやって歩ける事を。










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