小話1


1.
「エドガー様っ!」
自分の名前を嬉しそうに呼ぶのは数年前から傍に置くようにした少女だ。
そんな姿を見て以前セッツァーが洩らした「まるで躾が出来た犬だな」という言葉を思い出す。彼の言葉は間違っていないと思う。
何故ならシオンをそんな風にした自覚があるからだ。
「なんだい、シオン」
シオンは名前を呼ぶと目に見えて分かるくらい喜ぶ。花のような笑顔を咲かすのだ。
そんな彼女に堪らず自身へと引き寄せ、抱き締める。シオンからは以前手渡した香水の匂いがした。
「今のエドガー様、いつも以上に楽しそうです」
「そうだな、シオンがこうして私の傍にいてくれるからだろうな」
「もったいないお言葉です!でもすっごく嬉しいです、ありがとうございます!」
まるで鈴のような可愛らしい音をたてて笑うシオンに思わず自分でも微笑んでしまうのが分かる。
自分のたった言葉1つでこうも表情を動かすシオン。そんな風に躾けたのは紛れもない自分だ。
すべては彼女を独占したいという欲から。どうやったら彼女を自分なしでは生きてはいけない様にしようかと思いながら紡いだ言葉や行動の数々。それらは確実に彼女の元へと届き、そして彼女は自身の思惑通りとなった。
出会った当初は犬というより猫の印象の方が強かった。気が付いたらどこかにふらりと行ってしまいそうな彼女に焦燥に駆られた日々が酷く懐かしい。
もうそんな焦燥に駆られる必要などない。彼女は自分の傍でしか生きられない。確信を持ってそう言える。
そしてそんな自分も彼女なしではもう生きてはいけないのだ。
「シオン」
名を呼べば上機嫌を隠さずにしながら「なんですか?」とすぐさま反応を示す。何度も見てきたその反応は、見るたびに心が満たされる。
「好きだ、ずっと傍にいてくれ」
何度口にしたのか分からないその言葉にシオンは再び花の様な可愛らしい笑顔を咲かせるのだった。


2.
機械が発達している王国と言われているフィガロ。
幼少期からずっと機械が身近にあったが残念ながら私の頭では仕組みがまったく理解が出来なかった。一度だけとある機械の仕組みを聞いたことがあったがちんぷんかんぷんで結局「機械って作るのが大変!」が結論であった。
けれどそんな頭でも理解できる事が2つ。
1つ目は機械があるから人々の暮らしが楽になった事。そしてもう1つ目は目の前で笑顔になりながら仕組み等をお話しているエドガー様を見れる事だ。
エドガー様は私が機械についてちんぷんかんぷんだという事をご存知だから自分からはお話をして下さらない。けれども私の方から話しかけるととても素敵な笑顔でお話をされるのだ。
正直に言えばエドガー様がお話をされている事はまったく分からない。たぶん今は私が使っている機械(この機械はエドガー様が直々に作ってくださったのだ!)についての事をお話しされているのだろうけれど。
専門用語達が私の頭の上を凄い勢いで飛び去っていくのを感じながらエドガー様を見て、相槌を打つ。
あぁそれにしても本当に素敵な笑顔だ。心の底からの笑顔とはこういうことを言うんだろうなあ。どことなくマッシュ様と笑顔が似ている気がする。
ずっとこんなエドガー様の笑顔を見ていたい。普段のエドガー様はどこか自身の感情を抑えている節がある…ように見えるから。私みたいにとは言わないけれどもう少し出しても良いと思う。
もっと楽しそうにしていたり嬉しそうにしているエドガー様が見たい。その為だったら私は何だってする気だ。
こんな小さな世界でこんな素敵な笑顔を見せるだけなんてもったいない。もっと大きくて広い世界で見せてあげなければ。
そんな小さな小さな決意を笑顔に乗せて私はエドガー様に笑うのであった。










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