第48回


*使用したお題*
間違い
星を観るには速すぎて


彼女はひどく恥ずかしがり屋であり人見知りが激しい。それは出会った当初から変わらずで。
初めて出会った時は人見知りが激しい子なんだなと思ったのだが共に旅をするようになってからも変わる事はなかった。
それでもこうして2人っきりで飛空艇の甲板で夜空を見ながら話をする事が出来るようになったのは随分進歩したものだと我ながら思う。
「今日は星も空も綺麗だよなぁ」
隣に座っている少女にそう話しかければ声の代わりに視界の隅で小さく少女の頭が上下に動いた。
その反応だけでも満足感のような安心感のようなそんな感情が広がる。願わくば声を聞きたいところだがそれはまだ無理なようだ。
「手を伸ばしたら届きそうなくらいだよなー」
言いながら気付かれぬ様に少女に視線を向ける。少女は夜空を見上げていた。夜空を見つめている瞳は星の様に輝いており、表情はどこか楽しさを含んでいる。そんな少女の姿に思わず見惚れそうになってしまった。
普段の彼女は表情を見られたくない為に顔を隠す様に深くフードをかぶっている。今は夜空を見る為だろう、フードは外しておりはっきりと表情が見て取れるのだ。
これは貴重な一面だ、と思っていると不意に少女がこちらを向いた。しまった、と思った時には少女は慌てふためきながらもフードを深くかぶってしまった。一瞬だけ見えた顔が赤く染まっていたのは気のせいだろうか。
「ご、ごめんな」
慌てて謝るが少女は自身の膝に顔を埋めてしまっている。待っても返ってこない反応に思わず小さく息が洩れてしまう。
胸の中に広がるのは自身の浅はかな行動を非難する思いだ。せっかく近づけたというのに、これでは振り出しに戻ってしまう…いやもう戻ってしまったのだろう。
馬鹿すぎるだろ俺、と心の内で呟き、立ち上がる。
「俺、もう行くよ。あんまり夜更かししちゃダメだぞ」
とりあえず今はこの少女から離れた方が良いだろう。
少女に嫌われている訳ではないだろうが少なくとも少女を怖がらせる何かを持っているのは共に旅を始めてからすぐに気づいた事だった。
だからこそ慎重に距離を測っていたというのに。
明日からどうしようかと考えながら部屋に戻るべく足を踏み出す。その時だった。
「ま、待って…!」
か細い声が耳を擽る。思わずどこからだと辺りを見回すがこの場には自分以外で声を発する事が出来る者は一人しかいない。
まさか、と思いつつ少女を見ればかちりと視線が合った。
「ち……ちが、うの……あ、あの」
視線を彷徨わせながらも初めて自身に対してのみに紡がれた言葉と声。それを感じ取った瞬間、何とも言えない感覚が自身の中を駆け巡った。様々な感情がごちゃまぜになっていて良く分からない。
「あ、謝るの、私…だから……マッシュさんが、悪い訳じゃないの…ごめ、なさい……」
たどたどしく出てくる言葉が終わるのと同時に少女は小さく頭を下げる。
その姿にぼんやりとしていた意識がはっきりとし、慌てて「謝る事じゃない!」と告げる。
「じっと見ていた俺が悪いからさ。だから君が悪い訳じゃない」
「……で、でも……いっぱい、謝る事、あるから……」
「へ?」
「ほ、本当は、ずっと、いっぱいマッシュさんと、お話したいの。でもいざお話しよう、ってなると…は、恥ずかしくて……」
顔を上げ、こちらを見ながら必死に話す少女だったが言い終わるやフードをぎゅっと持ち、深く被って俯いてしまう。
少女の姿と先程の言葉の数々を頭の中で浮かべる。自分が少女と話をしたかったのと同じで少女も自分と話をしたかったのだ。
今まで声を発しなかったのは自分が怖かったからではなく、どのように話しかけたり返答をしたらいいのか分からなかったなのではないだろうか。
「…なーんだ!俺と一緒だったんだな!」
「……え」
「俺もさ、君と話をしたかったんだ!だから一緒だったんだなって思ってさ」
再び少女の隣にどかりと腰を下ろし、少しだけ顔を上げた少女を見ながら笑う。
「少しずつでいいからさ、いろいろ話そうぜ。俺、もっと君の事を知りたいし」
「……!う、うん……!」
笑いながら話しかければ少女は更に顔を少しだけ上げる。
そして微かにだが頷きながら微笑んだ。
その笑みを見た瞬間、心がひどくざわつく。けれどそれはほんの一瞬だった。だからざわめきの正体を見つける事は出来なかった。
だが今はそんな事よりも少女と話が出来るという現実の方が自身の中を支配していた。
こちらをじぃっと見つめてくる少女からは少しだけ話をしたそうな雰囲気を出している。
その雰囲気に導かれるまま、浮かんだ話になりそうな内容を口にしたのであった。










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