第47回


*使用したお題*
逃亡
流れ星は何処に行くの?

どうしたものか、と目の前にいる少女を見てそっと息を洩らす。
最初は危なっかしくて、そして何より血は繋がってはいないとはいえ親友の子供という事で目を離すことが出来なかった。
それが今はどうだろうと考え、確かに今も目を離す事は出来ないが今は様々な思いが渦巻いている事に嫌でも気づかされる。
「カインさん?」
洩らした息に気付いたのか、数歩前にいた少女が気がつけば目と鼻の先にいた。
ガラス玉のような瞳に疑問を湛えている少女に何でもないと告げるが少女は納得をしてはくれず、こちらをじぃっと無言で見つめる。
「最近、カインさんってばよくため息ついてません?」
「気のせいじゃないか」
「気のせいじゃないですよ!だって、カインさんの傍にいっぱいいますもん!」
理由になっていない理由を得意気に言う少女にさてどうしたものかと考えを巡らせる。
育った環境というものは大きいものなようでこの少女は母親に似て頑固なところがある。恐らく理由を言わなければずっとこのままだろう。
「私には言えないんですか?」
「そうじゃない。言う程の事でもないという事だ」
「……父さんと母さんには言うんでしょ」
頬を膨らませながらぼそりと紡がれた言葉。この近距離ではしっかりと聞き取る事が出来た言葉に思わず呆気にとられている間にも少女は言葉を続ける。
「分かってますよ、私は父さんと母さんと違ってカインさんと会ったばっかりで信用もないししかもカインさんよりずっと年下だから。でも気になっちゃうんですよ」
矢継ぎ早に出てくる言葉に思考がうまく追い付かない。
けれども分かるのは少女が一点だけとんでもない誤解をしているという事だ。
不貞腐れた表情で顔を背けている少女の名前を呼べば「何ですか」とあからさまに不機嫌を滲ませた声音が返ってくる。
自分が見たい表情や聞きたい声はこれではないのだが、と思いつつ誤解を解くために口を開く。
「お前は誤解をしている。俺はお前を信用していない訳ではない」
「…じゃあなんでお話をしてくれないんですか」
「信用をしていても話せない事もある」
「それって信用してないって事じゃないですか…」
「例え信用をしている者にでも話せない事はある。それはお前だってそうじゃないのか?」
諭すように言えば少女は少しだけ考える仕草をしながら「うーん」と悩んでいる様な声を発する。そして数秒の後、こちらを見ながら小さく頷いた。けれども表情を見る限りは納得をしていないようだ。どうしてもこちらの悩みを聞き出したいらしい。
いっそうの事打ち明けたらいいのではと思わなくもないが後々の事を考えると今一歩踏みとどまってしまう。
「顔に本心が出ているぞ」と指摘をすれば慌てて顔を横に何度も振る。素直なところも惹かれた部分ではあるがこのままだと彼女の立場的にどうかとは思わなくもない。
「いずれ話そう」
「…いずれっていつですか」
「お前がもう少し大きくなってからだな」
「ま、またそうやって子供扱いですか…!」
「俺から見たらまだまだ子供だ」
そうだ、相手はまだ子供だ。たとえ姫という立場であっても子供なのだ。そう目の前にいる少女に言い聞かせているつもりだが自分にも言い聞かせている様な気がしてきてやるせない気持ちになる。
今はこれで良い。だが数年後にはどう言い訳をすればいいのだ。子供の成長というものは早いのだから。
「……わ、私、もう子供じゃないんですからね!」
「子供という部分をずっと気にしている時点で子供だとは思うが」
「それはカインさんが子供子供言うからじゃないですか!」
「人のせいにするな…まったく、ほら機嫌を」
直せ、と続けようとした言葉は口から発せられる事はなかった。
何故なら目の前にいる少女の顔がぐっと近づいたかと思えば頬に微かに何かが触れた感触を感じたのだから。
その感触の正体に気付いた時、少女は駆け出していた。
…一瞬だけちらりと見えた少女の顔はまるで夕暮れのように真っ赤に染まっていたのは気のせいではないだろう。
「……参ったな」
誰もいなくなった空間でぽつりと自身の言葉だけが虚しく響く。
子供の成長は早いものだがあまりにも早すぎではないか。
少女が去って行った方角を見ながら小さく息をつき、どうしたものかと考える。
今はこれで良い、などと悠長に構えている暇などないようだ。
「人の気も知らないで…まったく」
少女の唇が触れた箇所を手でなぞりながら本日何度目か分からない息をそっと洩らした。










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