小話3


1.告白の日ネタ
「今日はねぇ、告白の日なんだってー」
干していた洗濯物を取り入れているとひょっこりとリルムが現れ、真っ先に言った言葉はそれだった。
リルムの言葉に洗濯物をいれていた手を止め、声の主を見れば可愛らしい笑顔を浮かべていた。
「告白の日?」
「そうそう!面白い日だよねえ」
「…?そうですか?」
何が面白いというのだろうか。そもそも告白とは一体何を告白するのだろうか。浮かぶのは感謝の言葉くらいなのだけれど。
首を傾げる私。そんな私に気付いたリルムは笑顔から一転してむすっとした表情を浮かべ始める。
「そうですか?じゃないよーもう、意味分かってないでしょ?」
「ええっと…告白って、例えば感謝を伝えたり…」
「ちっがーう!なんでそうなるのさ!」
「違うんですか?じゃあ隠し事でしょうか?」
「それも違う!もうっなんであの色男の近くにいるのにそんなにアンタは鈍いの!」
「いでっ」
どかどかとこちらへとやってきたリルムにお腹に思いっきり頭突きをされた。い、痛い…
痛むお腹を押さえながらリルムを見ればますますむすっとした表情になっている。
「良いっ!?告白ってぇのはね、好きな男に好きですって伝える日なの!まぁ男が女に伝えるっていう時もあるけど!」
「あぁ!なるほど、そういうことですか!つまり皆さんに好きですって言えば、」
「だからちっがーう!鈍感にも程がある!シオンってば今までよくそんな感じで生きてこれたね!?」
「えっ?え、えぇ…はい?」
何故かますますリルムを怒らせてしまった。可愛らしい顔が鬼の形相になっている。なんだかセッツァーといい勝負だ。
などと場違いな事を考えていればそれに気づいたのかリルムが「聞いてんの!?」と迫ってきたので慌てて頷く。
「リルムの話ちゃんと聞いてた!?異性に伝えんの!」
「は、はい」
「つまりそれは付き合えって事なの!分かる!?」
「は、はい!」
「ほんとーに分かってんの!?適当に返事してるでしょ!」
「し、してませんって!分かってます!……た、たぶん…」
どうしたものか。これは下手な魔物より厄介だ。
なんとなくリルムの言いたい事は分かってきたが…だが、異性に好きだと伝えるのにそんな日が必要なのだろうか。
尚もいろいろ言っているリルムに適当に相槌を打ちながら何とかしてこの場から脱出をしなければと考えを巡らせている時だった。
「賑やかだと思ったらやっぱり君たちか」
「色男!」
「エドガー様!」
とても良いタイミングで現れたのはエドガー様だ。さすがエドガー様だ!
いつもの穏やかな笑みを浮かべたまま私達を見たエドガー様は「いったい何の話で盛り上がっていたんだい?」と訊ねてきた。
その問いに私が口を開く…より先にリルムが「聞いてよ!」と話し出した。
「アンタの従者、どういう教育されてきたの?ちょっとこれは問題じゃない!?」
「わわーっ!?ちょ、何を言いだすんですか!?」
「おや、シオンが何かしたのかな」
「いくらなんでも色沙汰に関して疎すぎだよ!これ病気じゃないの!?」
「びょ、病気……」
なんだか散々な言われ方をされている。さすがにちょっとだけ傷つく…が否定が出来ない。なにせリルムが言いたい事の8割くらいを理解が出来ていないのだから。
リルムの話をずっと聞いているエドガー様は少しだけ考える様な仕草をしている。
というかリルム、すごいよく喋れるなあ…話の合間に私を貶しているのさえなければいいのに。
「…ってことなの!ちょっとどういう事なの!」
「どういう事、と言われてもね…そこがシオンの魅力だと私は思うのだが」
「魅力ぅ!?これはただの鈍感って言うじゃん!」
「り、リルム…私に何か恨みでもあるんですか…?」
「やれやれ、レディは相変わらず素直だな。シオンの事を心配に思ってくれるのは嬉しいが彼女には私がいるから大丈夫だよ」
「は!?べ、別に心配なんてしてないし!」
…ん?リルムが私を心配している?エドガー様の言葉に思わず目を瞬かせ、リルムを見ればリルムは顔を夕焼けの様に真っ赤に染めていた。
エドガー様が嘘を言うとは思えない。となると。
「リルム…!ありがとうございますっ!私の事、心配してくれてたんですね!」
「は!?ち、ちが、あっいや違わない、けど…」
「大丈夫ですっ!私、こう見えてエドガー様とお会いする前は一人旅をしていたんですよ!だから大丈夫です!」
「何がさー!?あぁもう知らない!じじいのところ行ってくるし!」
「えっ?あっリルム!」
言うや物凄いスピードで駆け出してしまったリルム。仲間内では足が速い部類に入る彼女だ、あっという間に姿は見えなくなってしまった。
残されたのはくすくすと笑っているエドガー様とぽかんとしている私だけだ。
「本当に彼女は素直だね」
「そ、そうです、ね…?」
出てくる言葉だけを聞けば他人を罵ったりする言葉だけだが本心は違う、という事なのだろうか。
もともとリルムは優しい子だと思うし、きっとそういう事…なのだろう。今度からお話をする時はちょっと意識してみよう。
「ところでシオン」
「は、はい!」
「今日は告白の日だそうだね」
「みたいですね!」
「意味は分かったのかな」
「な、なんとなく…大好きな方にその大好きっていう気持ちを伝える日…ですよね?」
「そうだね。で、その気持ちを誰かに伝えるのかな」
穏やかさを含んだ青い瞳が私をじっと見つめる。
どうしてエドガー様はそんな事を聞いてくるのだろうか?今日が告白の日だから?
そんな疑問が頭の片隅に小さく浮かんだが、エドガー様の問いに対する答えは考えるより先に大きく浮かんでいた。今はその答えを言う方が先だ。
「もちろんです!言うお方はエドガー様ですっ!」
そう言えばエドガー様は「それは光栄だ」と微笑む。少しだけ嬉しそうに見えるのは私の目がそういう風に見せているからなのだろうか。
まぁどちらだって構わない。私が大好きだと伝えたいのはエドガー様なのだから。無論、一緒に旅をしている皆も好きだ。でも大好きなのはエドガー様なのだ。
「大好きです、エドガー様!ずっとお傍にいさせてくださいね!」
ありったけの言葉と笑顔を浮かべながら言う。
するとエドガー様は今度ははっきりと分かるくらい嬉しそうな雰囲気を出しながら「ありがとう、私もシオンが大好きだよ」と言ってくださったのであった。


2.第47回ワンライ様より
*使用したお題*
逃亡
ダメです、まだ怒ってます

「セッツァー、助けてください!!」
そう言いながら突然部屋にやってきたのはエドガーの従者であるシオンだった。
いつもは馬鹿みたいな笑顔を浮かべている、がセッツァーの印象であったが今のシオンはあの笑顔を浮かべてはおらず代わりに浮かべていたのは泣きそうな表情だった。
この表情がなければ今日も自分の飛空艇内で何度注意をしてもやめないガウとのかくれんぼだのおにごっこをしているのだと思ったのだが。
「急にどうした」
寝そべっていたソファから気怠そうに身を起こし、ふんぞり返るように座り、さも面倒そうに言えばシオンは「聞いてくださいよぉ!」とセッツァーにずささと駆け寄った。
「エドガー様が今日ずっとご機嫌が悪いんです!」
「……は?」
「私、どうしたらいいんでしょうか…私が話しかけてもずっとご機嫌が悪くて…うう…」
涙目になりながら呟くシオンにこっちがどうしたらいいんだよと言いかけたが更に面倒になりそうなので言うのをやめる。
「別に朝は機嫌悪くなかっただろ」
「はい…私も朝まではそう思ってました…」
「いつから悪いって思ったんだ?」
「ええと……私が買い物から戻ってきてから…でしょうか…セッツァー私どうしましょうエドガー様を怒らせるような事をしてしまったんでしょうかこれでは従者クビですよねもうお仕えできませんよねあぁぁああ…!」
「とりあえず落ち着け!つか人の膝の上で泣くな汚れるだろうが!」
セッツァーの膝の上で顔を突っ伏し、泣き始めるシオン。そんなシオンをセッツァーは強引に引っぺがし、自分の隣に座るように促す。
促されるままシオンは鼻を啜りながらセッツァーの隣に腰を下ろす。
「セッツァー…私どうしましょう……!」
「原因は何となく分かるからとりあえず俺の質問に答えろ」
「さ、さすがセッツァー…!飛空艇の操縦以外でも頼りになるなんて!かっこいいです!」
「それは褒めてんのか、貶してんのか」
「えっ、褒めてますけど…?」
「……そりゃどーも」
今のは明らかに喧嘩を売っている言い方だったが本人に自覚はない。そしてその部分を指摘すれば更に面倒な事になるのは目に見えている。これ以上面倒な事は増やしたくはない。
いつか飛空艇内で暴れている分も含めて復讐をしてやろうと胸の内で決意をし、浮かんだ質問を投げつけていく。
「お前朝からどっか行っていたよな。どこ行ってた」
「近くの街に遊びに行ってました!」
「次。その髪飾りはどうした」
「これですか?可愛いですよね!遊びに行った時に頂いたんです!」
「誰からだ」
「知らない男性の方です!何でも懸賞だかで当ててしまったのだけれど自分には使えないからって私にくれたんです!」
「ラスト。その話を王様にしたのか」
「はい!もちろんしまし、いだぁ!?」
「お前…本当に阿呆で馬鹿だな。その脳みそは飾りか?」
思いっきりシオンの頭を引っ叩いたセッツァーの表情は怒りを通り越して呆れを表している。
一方シオンはといえば頭を抑えながら「ほ、星がたくさん瞬いています…」と小声で呟いていた。
「予想はしていたが案の定お前が悪いじゃねぇか。この馬鹿」
「わ、私ですかぁ…!?」
「お前以外に誰がいるんだよ。つか、知らん奴から物を貰うなって躾けられてねぇのか」
「し、躾ってなんですか!酷いです!セッツァーかっこいいって思ったのに!撤回です!」
「生憎ガキにかっこいいって思われても何も嬉しくないんでね。美女なら話は別だが」
「さっきから酷いですよ!いやまぁ美女だなんてこれっぽっちも思ってませんけど!」
喚くシオンを受け流しながらセッツァーはこれだからめんどくせぇと思いつつ懐にある煙草に手を伸ばす。
「セッツァー!聞いてるんですか!?」
「聞いてる聞いてる。つか、んなことより王様どうすんだよ。放っておくのか?」
「放っておくなんていう選択肢はありません!でも解決策が見つかりません!」
「ちったぁ自分で考えろ!だからお前の脳みそは飾りなんだよ!」
「うぐっ……そ、そもそもエドガー様が機嫌を損ねる理由も良く分かりません…この髪飾りがお好きではないんでしょうか…」
「お前……」
駄目だ。根本的に駄目すぎる。これではいつまでたってもエドガーの機嫌は直らないだろう。
どうやったらここまで鈍感になれるのだ。ここまでくるともはや才能の領域なのかもしれない。
「セッツァー…教えてくださいよ…私、このままは嫌です…いつものエドガー様とお話がしたいです…」
「だったらそのまま思った事を伝えて来い。もうそれしか方法はねぇよ。まぁあえて言うんだったらその髪飾りが関係している。あと髪飾りの好み云々は絶対言うんじゃねぇぞ」
「わ、わかりました…エドガー様に、もう一度会いに行ってきます…!」
ここで自分が何かを言うより直接本人と会って話をした方が良いと判断をし、そう言えばシオンは決意を秘めた目をして頷く。
「ありがとうございます!私、頑張ってきます!」
「礼なら酒で良いぞ」
「分かりました!解決をしたらセッツァーが好きそうな物を買ってきますね!では、行ってきます!」
勢いよくソファから立ち上がり、ぱたぱたと駆けながら部屋を後にするシオン。
そんな彼女を見送り、セッツァーはようやく穏やかな時間を過ごせると煙草の火を消すと再びソファに寝転がった。

――数十分後。再びシオンが助けを求めに来る事などこの時のセッツァーが知る由もなかった。









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