第45回


*使用したお題*
目覚まし時計の反逆
当然の結果

やってしまった、とマッシュが開幕一番そう思ったのがこの言葉であり、そう思ったのと同時に小さく息を溢す。
そんな彼の背には薄い水色のカーテンで閉ざされた窓。そのカーテンの僅かな隙間からは陽の光が射し込んでおり、部屋に影を落としていた。
「まさか俺とした事が…」
思わず口にしてしまった時。目の前にいる物体がもぞりと動く。その音にマッシュは起こしてしまったか、と身構えたが物体はそれ以降動く事はなく、代わりに規則正しい息遣いが聞こえてきた。
その事に安堵の息を洩らし……それでは駄目ではないかとマッシュは自分自身の行動に突っ込みをいれ、思わず頭を両手で抱えたくなってしまう。両手で抱えたくなってしまう、というのは文字通りだ。何故なら彼のまるで丸太のような腕は現在もぞりと動いた物体――少女によって使われているからだ。
片方の腕は少女の枕に、そしてもう片方は少女と自身との体を密着させるために回されている。
気持ちよさそうに眠る少女を見つめ、マッシュは本日起きてから何度目か分からない息を溢し、意を決して少女の名を呼ぶ。
けれど返ってきたのは気持ちよさそうな寝息だけだった。
その後も何度か呼びつつ少しだけ体を揺するが返事はない。想定はしていた事ではあったが現実として現れてしまい、マッシュはますます本気で頭を抱えたくなる。
カーテンから僅かに射し込む光が、早朝ではない事を示していた。

目の前で眠る人物は朝に弱い。
その事はマッシュのみならず仲間達も周知の事だった…当の本人でもある少女ですらも。
最初こそ仲間達もマッシュも彼女を起こそうと躍起になっていたのだがいつしか諦め、自然に起きてもらうまで待つ事が日常となった。
故に少女は朝早くに起きたい、とマッシュに相談をしてきたのだ。このままでは仲間達に迷惑をかけっぱなしだと。
では何故マッシュに相談をしてきたのか。それは彼と少女が恋仲であった事とマッシュが朝早くに起きて鍛錬をしているからであった。
何個も目覚まし時計をかけても起きる事が出来ない。だがマッシュに強引に起こして貰ったら起きれるのではないか、と必死な瞳で見つめられ。そんな彼女に断る事も出来ず、マッシュは少女と共に眠りについた。
――そして、今に至る。

今は何時だろう、と少女を起こさぬ様に体を動かして壁にかかっている時計を見れば既に早朝の鍛錬の時間をとうに過ぎていた。というよりもう仲間達は朝食を摂っている時間帯だろう。
よりによって何でこんな時に寝坊をしたんだ、俺は。心の内で自分自身を叱るがそんな事をした事で今の状況は変わらない。
とりあえず少女を起こさねばと気を取り直す。
先程よりも強く体を揺すりながら声をかける。
「ほら、起きろって。朝だぞ」
頼む、起きてくれ。そんなマッシュの願いが通じたのか、少女が微かに声を洩らしながら身じろぐ。けれども目は依然として瞑ったままだった。そして更に困った事が起きる。
少女が身動ぎをしながらマッシュにくっついてきたのだ。そんな少女の行動に思わずマッシュは先程より大きな声で少女の名を口にしてしまう。
禁欲生活が長かったとはいえ、マッシュとて男だ。ましてや目の前にいる少女とは恋仲で。つまりは。
「…ってだから俺は何を考えているんだよ!!」
危うく時間帯に似合わない想像をしてしまいそうになり、慌てて想像を打ち消す。今はそんな事より少女を起こす事が先決だ。
もうこうなったら多少強引な手を使っても良いのでは。眠りにつく前の少女の言葉を思い出す。少女は強引な手を使ってでも起こして良いと言っていた。
その言葉を思い出したマッシュは意を決して浮かんだ強引な手段を実行しようと動く……その直後。
少女の可愛らしい唇が小さく動いた。何かを呟いたようだが生憎聞き取れず。けれども唇の動きではっきりと何を呟いたのか理解できてしまった。
少女が呟いた言葉にマッシュは再び小さく息を溢す。そして諦めの表情と小さな笑みを浮かべ、少女を更に自身へと引き寄せた。
首筋に自身の顔を埋めれば少女の香りがいっぱいに広がり、ぽかぽかと温かい体温が自身へと伝わってくる。
寝坊をした理由は少女の体温を感じていたからかもしれない、と思いながら目を閉じる。どうせ今起きたところでもう遅い時間帯だし、何か言われるのは確定だ。なら少女が起きるまで自分も寝れば良い。
普段早起きをしているのだ、たまには遅く起きたって良いではないかと自分を納得させる理由を作っていれば睡魔はすぐに手を伸ばしてきた。
その手に抗う事をせず、そっと身を委ねた。

数十分後。
マッシュが起きてこない事に対して疑問に思った兄が部屋を訪れ、その光景を目のあたりにして小さく笑うのは別のお話。









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