心配性二人


恐らく衝動的だったのだろう、と思う。話していた人物が突然凶器を振り上げた姿は瞬間的だったとしても瞳に焼き付いてた。
自分の故郷を、大切な人を奪ったバロン王の娘。例え血は繋がらぬとしても私の身分はそれであり、そして現バロン王――父がかつてした行いは操られていたの一言では片づける事が出来ない物である。故にそれを分かっていた私は彼等の反対を押し切り、彼等の代わりに積極的に外交や街の視察を行っていた。
二度目の災厄を乗り切ったばかりの世界情勢は不安定だ。世界のありとあらゆるものを崩壊させた災厄は自然だけでなく人の心までも崩壊させた。だからこそ王と王妃を明るみに出す事は極力避けたかった。彼等に何かあったら次に崩壊するのは国だった。
――隙を見せていた訳ではない。だが結果的に重傷には至らなかったもののしばらく安静を余技させざるを得なくなってしまった。さてどうしたものかと真新しいシーツの上で明日以降のスケジュールの調整を考えながら手帳を捲っていれば不意に荒々しく部屋のドアが開かれた。
手帳を閉じ、物音がした方へと視線を向ければそこには手段は違えど私と同じく各地へと奔走する彼が険しい顔でこちらを見据えながら立っていた。驚かなかったのは先程窓から飛空艇が見えたからだ。
「随分と予定より早い帰還ですね」
そう問いかければ言葉ではなくこちらへと向かってくる足音が返ってきた。
当初の予定通りであればこの様な姿を見せる事はなかったのだが見られてしまった以上は仕方がない。小さく息を吐き、間近に迫った彼を見る。
「傷の具合はどうなんだ」
「深い傷ではないので問題ないですよ。明日にでも動けますが」
「冗談を真顔で言うのはやめろと言っているだろう」
冗談ではないのですがね、と言おうとしたが今の彼に言ったら盛大なお叱りを受けそうだと判断し寸でのところで飲み込む。
こちらの様子を伺う青い瞳にさてどう言ったら安心をして貰えるかと考えていれば不意に彼の視線が私が持っている手帳へと注がれ――たかと思った瞬間手の中から消えた。
「あっ」と思わず短い声を洩らした時には彼の瞳が私の手帳に書かれている文字に注がれていた。
「人の物を勝手に取り上げ、あまつさえ見るのはどうかと思うのですが」
「明日以降も予定だらけではないか。少しは自分の体を休めたらどうだ、お前は」
「休むのはすべてが落ち着いてからですよ」
「お前が出なくても良い事まで首を突っ込んでどうする。今回の件だってそうだろう」
「何を言っているんですか。城下の復興状況は自分の目で見ないと確かな物は見えませんよ」
部下からの報告書があてにはならないという意味ではない。ただ本当の姿は自分の目で見なければ分からないものだ。それは恐らく彼も分かっている筈だ。それでもそんな事を言うのは恐らく私の身を案じているからだと思われる。
「カインさんは心配性すぎますよ」
「そう思うのなら俺を心配させるな」
今度は彼が小さく息を洩らしたかと思えば私が寝ているベッドへと腰を下ろす。
「次回からは更に警備の手を厚くしないとならんな」
「そうしたら街の人に警戒をされますよ」
「それくらいで良い。今回の件は正直堪えたぞ」
「…すいません、でも覚悟はしていた事です」
「分かっている。だからこそ心配だと言っている」
こちらに向かって伸ばされた手がそっと髪を撫でる。どこか割れ物を扱う様な手つきに何となく彼の不安の様な物が伝わってきて思わずその手に自身の手を重ねる。
「でも心配は私だってしてるんですからね。お互い様ですよ」
「…そうだな」
「だからお互いにお互いを心配かけない様に頑張りましょうね」
そう言えばカインさんはようやく表情を和らげた。普段の生真面目そうな表情な彼も好きだがこうして穏やかな表情を浮かべている姿も私は好きだ。惚れた弱み、という物なのかもしれないが。
「そう言うのなら今からするべき事があるな」
「…?何かあります…?」
「あるだろう。これの中身の調整だ」
私の髪を触っていない手に握られているのは手帳だ。つまりは私の予定を減らそうという気だ。
それはさすがに困る、と言おうとしたが言い出したのは私だ。反論をしたところで勝てる見込みはないし何よりカインさんは私の予定を減らす気で満々だ。
余分な事を言ってしまったなと思ったがもう遅い。
「……お手柔らかにお願いしますよ」
「任せておけ」










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