甘え下手への教育方法


「カインさん、カインさん」
午後の陽の光を受けながらぼんやりと椅子に腰かけ、窓の外を眺めていたカインの耳に聴き慣れた声がふんわりと入り込む。
その声にカインは「なんだ」と言葉を発しつつ声がした先である後ろを振り返ろうとする。が、それより先にとんっ、と両肩に軽い衝撃が走った。
不思議に思い、ちらりと視線を動かせば近接武器を扱うには不得手に見える両腕が自身の首に回っていた。
「珍しい事もあるものだな」
「何がですか?」
すぐ真横から聞こえてきた疑問を含んだ声。その声にカインはふっと小さく笑うと抱き着いてきたシオンを見るべく顔を動かす。
「お前が甘えてくるなど滅多にないという意味だ」
「ん?そうですか?別にそんなつもりはなかったんですけども」
少しだけカインが椅子の位置をずらせばそれに気づいたシオンが彼から離れた。
程無くし椅子をずらし終わったカインがこっちへ来い、と手招きをする。するとシオンは瞳を輝かせながらカインの膝の上に飛び乗った。
「ふふっ、カインさん」
「なんだ?」
陽の光を背中に受け、カインの金色に輝く髪が一際輝いて見える。その輝きにシオンはうっとりと目を細めながら「何でもないですよ」と返しながらカインの頬に自身の頬を寄せた。
「普段もこれくらい甘えて貰っても構わないのだがな」
「結構甘えてるつもりだったんですけどね。でも疲れてるかなって時は自重してましたけど」
「…つまりお前から見れば俺はいつも疲れている様に見えているのか」
「あ、いや、そういう意味で言った訳じゃないですよ?」
赤き翼の隊長として各地を飛び回るカインが今日みたいに穏やかな日を過ごす事は多くはない。そもそも彼は城にいたとしてもあちこちに顔を出しては皆に付き合っているのだ。そんな姿を頻繁に見ていれば部屋にいる時くらいはゆっくりと過ごして貰いたいという思いも働くというもの。
だからたまにこうしてカインを独り占め出来る時があれば良いのだ、とシオンは思っていた。
「部屋にいる時くらいはゆっくりして貰いたいんですよ」
「その気持ちは有難い…が、だからといって遠慮をされるとこちらとしては愛想を尽かされたと思うのだが」
「え、それって本当に思うんですか?」
「多少はな」
カインが部屋にいると決まって何かと理由をつけて部屋から消えるシオン。消える理由が今するべき事でもない、その事にカインが気付いていない筈はなかった。
「出来る事ならば、俺はお前と共にゆっくりと過ごしたい」
先程までの様に1人で物思いに耽るのも嫌いではないのだが本音を言えばシオンと共に他愛のない話をしたりこうして触れ合ったりしたいのが本音だった。
カインの真っ直ぐな言葉を受けたシオンは少しの間を置いた後「本当ですか?」と疑問を口にする。その疑問にカインが「嘘を言ってどうする」と答えればシオンは小さく息を洩らした。
「そうですね…分かりました、努力してみます」
直ぐには出来そうには思えなかった。染み付いた「自分がいる事でカインが休めないのではないか」という考えはそう易々と変えれそうにもなかった。
「では早速だが今日は共に居て貰うからな。逃がしはしないぞ」
普段の声音に微かな喜びを含ませながら言うカインにシオンは「逃げたりなんてしませんよ」と返しながら小さく笑った。









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