眠れぬ夜に会いに行こう


小さく身じろぐ華奢な体をそっと引き寄せ、宥める様に背中を擦る。そうすれば小さな声が耳を擽り、動きが止まった。
「シオン」
そっと名を呼べば再び身動ぎ、自身の瞳に映るのは薄暗い室内でもきらきらと光る瞳であった。
「無理に寝ようとすればますます寝れんぞ」
「は、はい…で、でも寝ないと昼間が辛いです…」
「それはそうだが…」
動いた拍子に少しだけ乱れた毛布を直してやり、そのまま手をするすると動かしてシオンの髪をそっと撫でる。
「本当にすいません…」
「謝る程の事ではない」
部屋に来てから何度も聞いている言葉に同じ返しをしつつどうしたものかと考えを巡らせる。
――シオンが部屋に来たのは1時間ほど前であった。
遠慮がちにやってきた彼女が口にした言葉は「寝れない」であった。もともと眠りが浅いと語る彼女は今日はいつもにもまして眠れず、不安になって自分のもとに来たというのだ。
「カインさん」
くいくい、と服を小さく引っ張りながら風に吹かれて消えてしまいそうな程の小声を発するシオンに「どうした?」と訊ねる。
こちらを見つめてくる瞳は不安の色が濃く、余程精神的に参っているのだと思い知らされる。
「あの…もっと寄っても、良いですか?」
小さな問いに言葉で答えるのではなく、行動で示す。先程より密着をした事で彼女の香りが強くなる。その香りに思わず邪な感情が過るが今はそれ所ではない。
ありがとうございます、と小さな声で礼を述べたシオンは少しだけ安心をした表情を浮かべながら目を閉じる。
こうして甘えてくる姿はとても可愛らしく、そして普段なかなか見る事が出来ない姿でもあり密かな優越感を覚える。
「カインさんが傍にいるって思うと、すごく安心します」
「そうか」
安心の色が見え始めた表情に内心でほっとしつつ髪を撫でる手は休めず。互いに何も言わない時間がしばらく続く。
しばらくそうしていると微かな寝息の音が聞こえてくる。その微かな音にようやく眠れたかとほっと息をつく。
「良い夢を見れていると良いんだがな」
そっと起こさぬ様に頬に指を滑らせ、額に唇を寄せる。
「おやすみ、シオン」
小さくそう呟けば微かにシオンが笑った気がした。

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タイトル→バツ印の使い方様より









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