あなたがすき


目の前にある1つに束ねてある金色でさらりとしたそれに触れる。そしてそっと束を解けば「本当に好きだな」という苦笑交じりの声がしてきてそれに「しょうがないじゃないですか」と返す。
「だって、カインさんの髪が大好きなんですから」
そう告げればカインさんが振り返る。かちりと視線が合うやカインさんは少しだけ不思議そうな表情を浮かべながら「ただの髪だぞ」と言った。
さてどうしたらカインさんは理解を示してくれるか。
だが本当にただこの人の髪が好きなのだ。肌触りは良いし、女性である私から見たら若干の嫉妬を混ぜてしまう程に綺麗で美しいのだ。これで手入れをしていないなどと言うのだから何とも言えない気持ちになる。
「ただの髪ですけど、カインさんのだから好きなんですよ」
小さく笑いながらそう返し、髪に顔を近づける。
陽とカインさんの匂いが胸いっぱいに広がる。この匂いは本当に安心感を得られる。きっとこれも好きな理由の一つなんだろう。
「…お前の考えている事は良く分からないな」
「ふふ、そんなに難しい事じゃないんですけどね」
気付かれない様にそっと髪に口付けをする。
好きだと思う事に理由は必要なのだろうか。本能的に好きと感じ取っているのだから理由を説明しようとしても限度というものがある。
「カインさんが私の事を好いてくれてるのと同じ感じじゃないですかね」
「……分かったような、分からないようなだな」
「でも説明の仕方がないんですもん。好きだから好きなんですし」
「…ふむ」
私の言葉に分かったような分からないような曖昧な反応をするカインさん。
髪に寄せていた顔を、次に体を動かし、カインさんの隣に座る。そしてカインさんの表情を覗き込めば穏やかな色を宿した瞳とぱちりと視線が絡む。
「分かりましたか?」と聞けば「何となくな」と返され、言葉を返す為に開こうとした唇に微かな感触。
その感触が離れた後、間近にあるカインさんの顔を見れば「先程のお返しだ」と言いながらふっと笑う。
「……反則じゃないですか、それ」
「先に仕掛けてきたのはそちらだろう?」
「そ、それはそうですけど…」
「なら問題はないな」
するりと腰に腕が回されたかと思えば引き寄せられる。
「シオン、好きだ」
「えっ?あ、はい…って急にどうしたんですか」
「先程から何回も言われていたからな。まぁ髪にだが」
「……怒ってます?」
「そのような事で怒るほど器は小さくはないと思っているが?」
「………」
とても分かり辛い。結局は怒っているのではないかこれは。
「私もカインさんの事、大好きですよ」
「そうか」
ほんの少し、意識をしていなければ気付かない程の微かな嬉しさを滲ませた短い返答。
その返答に安堵していると再び唇が重なる。
「か、カインさん」
離れたタイミングで思わず名前を呼んでしまえば「なんだ?」と涼しげな表情と共に返答が返ってきた。
「きょ、今日はやけに積極的過ぎやしませんか…!」
「そんな事はないと思うが。嫌か?」
「い、意地の悪い質問…い、嫌なわけないじゃないですか…」
涼しげなカインさんに対して私はこれでもかという程慌てている。嫌ではないがなんというか気恥ずかしいというか。
誰かがいる訳でもないのにとにかく恥ずかしい。それもこれもいつもと様子が違うカインさんのせいだ。そう全部カインさんのせい。
断じて私のせいではないのだ…
だから勘弁してもらいたい、と思わずうっかり洩れそうになった言葉。けれどその言葉は出る事はなく、再び重なった唇によってかき消されてしまうのであった。


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5/23のキスの日ネタ。
髪にキス→「思慕」
唇にキス→「愛情」










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