天気のような君と


しなやかな指がすうっと動き、少しだけ古びた紙に触れたかと思えば滑らかな動作で紙を動かす。
瞳は数十分も前から紙にだけに注がれている。いや正確には何時間も前からだろう。
マッシュが早朝に買い出しの為に出かけようとした時には既に彼女はこの紙の束――本を手に持っていたのだから。
現在の時刻はそろそろ昼食の時間に差掛るというくらいだ。
マッシュがシオンの部屋に来たのはおよそ30分程前。一緒に街中に昼食を食べに行こうと誘いに来た為だ。
「なぁ、シオン〜まだ出かけないのか?」
「…ん…もう少し…」
何度目か分からないやりとりに思わず苦笑いを浮かべる。
シオンが読書好きだという事は前から知っていたし読書に夢中になっている姿は好きだ。何故ならこうして自身の膝の上に乗せても、綺麗じゃないからと言って触らせてくれない髪をいじっても怒らないから。
けれどもさすがにそろそろ限界だ。傍にいる以上は自分を見て貰いたいし腹もそろそろ空いてきた。
「でりゃ!」
「――あっ」
ひょいっとシオンの手から本を取り上げる。
急に目の前から消えた本にシオンはきょとんとしたが事を理解出来た途端、唇を尖らせてマッシュを見る。
「マッシュ、返してよ」
「だーめ。続きは俺と飯食ってからな」
「……良いところだったのに」
「お楽しみは後に取っておいた方が良いだろ?」
本を取り返そうと伸びてくる手から逃げつつマッシュは笑う。
しばらくの間、攻防が続く。
本を取り返すべく必死に手を振り回すシオンとそんなシオンの姿が可愛いと思いながらたまにわざとシオンが届きそうな位置まで本を向けるマッシュ。
シオンは至って真剣なのだがマッシュはどこか遊んでいるかのような振る舞いだ。
数分の後、先に折れたのはシオンだった。
「わ、分かったよ…先にご飯、食べる…」
少しだけ乱れている息を整えるようにしながら言うシオンにマッシュはにっと笑う。
「よっしゃ!じゃあ行こうぜ!さっき買い出しに行った時にシオンが好きそうなもんがある店、見つけたんだよな」
「ん、そうなの?」
「あぁ!きっと喜ぶと思うぞー」
「…そっか。じゃあ混み始める前に行かないとね」
マッシュの膝の上から下り、シオンは小さく伸びをする。
「そういえばこの街って私来た事なかったかも」
「じゃあ飯食ったらちょっと見て回るか?」
「んー……そうだね。面白い本が売ってるかもしれないし、良いかもそれ」
立ち上がったマッシュの腕にくっつきながらシオンはにこりと微笑む。
普段あまり自分からはくっついてこないシオンが取った行動に一瞬だけマッシュはきょとんとしたが次の瞬間には笑みを浮かべる。
今の彼女はとってもご機嫌が良いようだ。
「良い本があると良いな」
「うん。…じゃあ行こう。まずはご飯食べなきゃ。道案内よろしくね」
「おう、まかせとけ!」
先程までは本の続きが気になると言っていたというのに。今は出かける事に夢中になっているようだ。
あまりの変わりの速さに内心で感心をしてしまうがマッシュ的には悪くはない事だ。
頭の中で地図を描きながらマッシュが再び笑えばシオンも釣られるように笑ったのであった。










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