白黒の世界は消えた


色彩が戻る。



信じたくなかった。
会いたかった。
対になる思いが渦巻く胸を知ってか知らずか、目の前にいる彼女はにっこりと笑いながら「ミンウ」と自分の名を口にした。

「また、会えたね」

ゆっくりと微笑むシオンは生前に見たときと何も変わりはなかった。

「なぜ、」

ここにいるのだ。
死後の世界にいてはならない彼女は少しだけ目を伏せながら言葉を口にした。

「皇帝が自分の魔力で作った竜巻に巻き込まれたの」

沢山の人が巻き込まれたよ、と告げる内容が事実だということは知っている。
現にこの町――マハノンには竜巻によって犠牲になった大勢の人々がいる。
けれどその中にシオンがいるとは思いもしなかった。

「シオン」

微笑む彼女を腕の中に収める。
なーに、と返ってきた声と、伝わる温もりに彼女が確かにここにいることが実感出来た。
それが嬉しく、そして悲しい。

「君には生きていてもらいたかったよ」

表向きは皇帝を倒し、世界を平和にするために、裏は平和な世界をシオンに生きてもらうために。
そのためにアルテマの封印を解いたというのに。

優しく彼女の頭を撫でていると不意にシオンが顔を上げた。
その表情に浮かぶ困惑の色に「シオン?」と少しだけ動揺をしながら訊ねるとシオンはゆっくりと言葉を紡いだ。

「私は貴方に会えて嬉しいよ」

再び見せた笑顔はどこか歪んでいるように見えた。
その気持ちは私だって同じだ。だが、彼女に平和になった世界を生きてもらいたかった。
私が見ることの出来なかった、世界を。

――だが、その思いは自分に言い聞かせるためだったのかもしれない。
シオンとは遥か遠い時間まで会えぬという空虚を紛らわせるための。

「ミンウは…私と会えて嬉しい?」

恐る恐るシオンが私の顔色を伺うように聞いてくる。
私が曖昧な言い方しかしないから君はそんなに不安になってしまっているんだね。

すまない。そして――

「私も君にまた会えて嬉しいよ」

口元を覆っている布を外し、シオンのおでこにそっと口づけをすると彼女は頬を少しだけ染めながら私の好きな笑顔で微笑んだ。









(今度はずっと一緒にいよう)









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