夜が明ける


これもお仕事…ねぇ…?



優雅な音楽が室内に流れる。
その中で人々は談笑をしている。時に笑い――相手の腹の探りあい。貴族や国の上位職につく者たちが集まるパーティーなどそんなものだ。
壁に寄りかかりながら人々の話に耳を傾けているシオンは口元を押さえて欠伸を洩らした。手首につけているブレスレットがシャンデリアの光を受け、金色に輝く。

「暇そうだな」

不意にかけられた声にシオンは視線を隣へと移した。
自分と同じく壁に寄りかかっている男を見てシオンは「まぁね」と答えた。

「貴族さま主催のパーティーなんてくだらなくてね。…まぁ食事は美味しいから許すけど」

「はっきり言うな。まっ、その意見には俺も賛成だがな」

男――カインの同意にシオンは微かに嬉しそうな表情を浮かべた。

バロン王国に仕える2人がいるのはバロンから少し離れたところにある貴族の家だ。本来、招待されたのは国王と王妃だったが、ちょうど別件が入っており、行くことが出来なかった。そこで代理としてシオンとカインがパーティーに客として来たのだった。

「いくらセシルの頼みとはいえ、バロンに帰ったら文句を言ってやるんだから」

「――シオンはパーティーが嫌いなのか?」

「嫌いよ。昔っからね」

そう言い、また口元を手で押さえる。
カインは苦笑し、ふと先程から自分達に集中している視線をさりげなく見やる。
恐らく、貴族たちは自分達と話すチャンスを伺っているのだろう。最強軍事国家バロンが誇る「赤き翼」の隊長と「黒魔道士団」の団長――その肩書きはあまりにも強力過ぎる。

厄介なところに来たな、とカインは改めてうんざりとした。シオンではないが貴族たちの目的がはっきりとした以上、居るのにはなかなかの精神力が必要とされる。
何事もなく無事にパーティーが終わることを祈るしかない。

「カイン」

名前を呼ばれ、カインは思考を中断し、シオンを見た。

怪しげな笑みを浮かべたシオンにカインはいぶかしむ。

「なんだ?」

「――…ねぇ、逃げようよ」

小さな声で呟かれた言葉にカインは驚く。

「な、何を言い出すのだ」

「え〜だってさぁ、飽きたんだもの」

「俺たちはセシルとローザの代理で来たんだぞ」

「知ってる。でも、もういいでしょ?来てからかなり経っているわ」

壁に掛かっている豪華なアンティーク時計を見てシオンは微笑む。
言い出したら聞かないシオンだ。恐らく、カインがダメと言っても聞かないだろう。

――仕方がないな。

「セシルとローザのお小言は覚悟しておけよ」

「分かってる」

歩き出したカインの腕に寄り添い、シオンも歩き出す。周りの視線は何事かと2人を見る。それを感じながらシオンは心の中で、してやったりと微笑んだ。










(優雅なパーティーなんてつまんない!)(人選ミスだな、セシル)









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