愛している


貴方の言葉をちゃんと聞きたかったよ。



「行ってらっしゃい」

笑顔で言った彼女の表情は今も覚えている。
彼女は俺を引き止めなかった。
引き止めても無駄だと思ったのかもしれない。彼女と俺は幼馴染みだった。いつもはしゃいでばかりで無茶なことをたくさんしていた俺たちのブレーキ役だった。つねに穏やかで優しい笑みを浮かべていた――それが俺の知る彼女。

十数年前の戦いの時も共に戦った仲間だ。
俺が裏切ったあと、最初に手を差しのべてくれたのも彼女だった。

「行きましょう、カイン」

まるで今からピクニックにでも行くような言い方に俺は救われたのだ。
俺がセシル達と共に行動するようになり、ふと物思いにふけているといつもの優しい笑みで「どうかしましたか?」と聞いてきた。彼女にはいつもセシルやローザに言えないことも相談できた。真っ先にバロンを出ていく時に告げたのも彼女だった。
最初こそ驚いた表情をしたが、俺の気持ちを悟ってくれたのかいつもの笑みで送り出してくれた。

「帰ってきた時に言いたい言葉がある」

いつの間にか俺の中で芽生えていた気持ち。だが、それを伝えるのには早すぎる。だから、次に会った時に言おう。俺が最後にそう言ったとき。
俺は初めて彼女がどこか悲しげな笑みを浮かべたのを今でも覚えている。




穏やかな風が草原を吹き抜けていく。
風に導かれて俺はゆっくりと足を歩ませる。
次々と思い出が蘇っては消えていく。

しばらくすると遠くに1本の大樹が見えてきた。
目的地まですぐそこだ。
そこに彼女がいる。

深い緑の葉が風に吹かれてふわりと飛んでいく。
大樹の元まで辿り着いた俺を迎えてくれた彼女に俺は語りかけた。

「久しぶりだな」

俺は今までにあった出来事を順番に話した。
過去を受け止めたこと、赤き翼の隊長になったこと。話すことは沢山あった。
けれど彼女から昔のように返事は返ってこなかった。

「なぁ、シオン」

そっと目の前に佇む「それ」を撫でる。
お前はあの時知っていたんだな。知っていて、それでも約束をしてくれたんだな。
俺のことを一番理解してくれていて、だけど俺はシオンのことを何一つ知らなかったのだ。
本当は怖かったのだろう?だけど、いつも笑顔でそれを隠していたんだな。

「あの時…言えなかった言葉を言ってもいいか?」

俺が言った直後、まるで答えるかのように風がふわっ、と吹いた。

思い出の中のシオンを思い浮かべて俺は最初で最後の言葉を口にした。











(そう言ったとき、)(思い出の中のシオンが微笑んだ)









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