鉛色の空


表と裏。それはコインのよう。




エンタープライズの中は焦燥に駆られていた。
誰も話さず、ただ機体のエンジン音だけが虚しく響く。
あと30分もすればバロン城に着くだろう。
そこで何が待ち受けているのか。本当に母を拐っていったのは写真の中にいた竜騎士なのか。
シオンは隣で壁に腕を組んで寄りかかっている男を見た。
風に吹かれ、金色の髪がふわりと浮かぶ。

「どうした」

男が閉じていた瞳をゆっくりと開けて問う。

「母が心配か?」

男の言葉にシオンは首をかしげた。
心配、と聞かれシオンは考える。
不思議と母が心配という思いはなかった。何故だろう?拐っていった彼が母に何もしないという確信はないというのに。
それよりも、今は母のことよりも目の前にいる男のことが気になった。なぜ彼はこんなにも冷静なのだろう。

「一つお訊ねしてもよろしいですか?」

シオンが訊ねると男は目でなんだ、と聞いてきた。

「貴方はなぜそんなにも冷静なのですか」

すると男は一瞬動揺した。それに気が付かないシオンではない。
この人も焦燥に駆られているのだ。ただ、表には出さないだけで。
あの竜騎士を追っていると彼は以前言っていた。
ならば焦るに決まっているではないか。

「私が冷静に見えるか」

自虐的に彼は笑った。
その笑いはどこか悲しそうに見えた。

「えぇ。この中では一番冷静に見えます」

「そうか…」

「でも、一番冷静ではないのも貴方なのですね。今の反応で分かりました」

男は何も言わず、ただ目を静かに閉じた。
シオンも何も言わず、視線を空へと移す。
どんよりとした雲がバロンの上空にじわじわと広がっていた。








(何かが起こる気がする)(奴を殺せば…本当にそれでいいのか?)









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